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料理に恋して/カレー編

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         13

 NGO活動をしているクラブだった。
 加奈子は料理学部を差し置いて
 そっちに入っていた。
「ごめんねぇ、入れなくて、
 掛け持ちしよっか」
「き、気にしないでぇ」

 加奈子のため息。
「全世界には食べれない子が
 いっぱいいるのよぉ」
「身をくねらすなって」
 うちの口調が一瞬、
 はしたなくなる。
 前の加奈子の方がまだまし。

 うちは元に戻る魔法を
 自分に掛ける。
「そんなことに興味あった?」
「興味なんて、後から付いてくるって」
「はあ」
 うちの口が間抜けとなって、
 パカッと音を立て開く。

「まずはやることよ。
 動機は不純だっていいのよ。
 不純の方がいいくらいなのよ」
「はあ」

 パカパカッ、
 うちは茹ったハマグリとなる。


         14

「いいダシ出てるぅ?」
 仲間に尋ねることも許されず、
 加奈子に強引に腕を
 引っ張られていた。

「抜けるって」
「抜けるわけないでしょ」
「じゃ、いずこへ?」

         *

 うちは付き合わされ、
 部室の窓の隙間から、
 覗き見させられる。

「太ってる」
「がっちりしてるのよ」
 そ、そんなことない。
「ああいうのでいいの?」
 言い間違いに気付いたうちは
 慌てて言い直す。
「ああいう人が好きだった?」

 睨むのも忘れて、
 加奈子がポーッとする。
「熊みたいでしょ」
 ブタみたいとは言えない。
「熊のぷーさんみたい」
「ぷーさん?」
 加奈子は少し考えてから、
「ま、いいか。
 タオのぷーさんなら」
 再び、ポーッとする。

 空中に浮き始めた加奈子の足を
 うちは地面に這いつくばり、
 しっかと接合する。
「はい、着地着地」

「手間が掛かるんだからぁ」
 言われ続けたことを
 うちが言っている。

「玉子焼き作ろッ」


         15

 うちはキッチンの音に耳を澄ます。

 まな板をとんとんする、
 包丁の音。

 フライパンでお肉を焼く音。

 お鍋が煮える音。

 水を出す音。

 ガスを消す音。

 再び、ガスが点く音。

 食器を洗う音。

 みんなで
 ハーモニーを奏でてる。


         16

 アヤネが速読をしてみせた。
 山田さんが持っていた小説を
 十五分と掛からず読んでみせた。
「すごーい」
「全然すごくないわ。
 ストーリーは分かるけど、
 全然、味わってない。
 シーンの持つ味わいが薄まってる」
「早食いみたいなもの?」
「そうかもね」

 うちは風船を浮かべる。
「がつがつ食べてこそ、
 おいしいものもあるし、
 味読してこそ、
 おいしいものもあるし」
「ビールなんて、
 ぐびぐび飲んでこそ、
 おいしいもんねぇ」

「うちは年々、食べるのも読むのも
 遅くなってる気がして」
「年々、鈍ってるのよ。
 よ、童顔にして、ご老体」
 やって来たばかりの加奈子が
 一杯の水をぐい飲み。
「ああ、おいしい。
 水が一番の料理」

 速聴もできるアヤネは
「ま、そこら辺は
 使い分けってことでご勘弁を」
「勘弁してあげるぅー」
 みんなの声が揃って、
 歌に移行する。

 流行歌を置き去りに、
 関大の校歌になる。


         17

 うちは武者震いする。

 勇みたって、体が震える。

 散歩中のチワワ八匹から
 ガンを飛ばされてる。


         18

 虫から強請られてる。

 鳥から説教されてる。

 うちって幸せ。

 樫の大木を
 ずっと立ち読みする。


         19

「食べるのが好きなのよ。
 だから、食べれない子らの
 気持ちが痛いほど、分かるのよ」
「はい、矛盾してませんね」
 たぶん、すっきりしたうちを
 突付きながら、加奈子は
「おいしい店を紹介する」
 といって、関大料理学部に
 三回生の熊さんを連れて来ていた。

「味は二の次で、
 量だけ多ければ、満足しそうね」
 と他のメンバーが
 コック姿で決めたうちに
 耳打ちする。
「答えに窮するようなことは
 勘弁してぇ」
 とうちは仲間にお願いする。

 空が黄色くなったり、
 赤くなったりする。
 うちは青になるのを待つ。

         *

 カレーの大盛りをサーブする。
「こちら、親友の中浜、
 ピラミッドカレーの
 はい、説明説明」
 と加奈子がうちをせっつく。

 また親友? いつ親友?
「(ま、いいけど)」
 うちは疑問を後回しに、
「本日はポーク・ビンダルーです」

 ギョッとする熊さんと
 顔が平べったくなった加奈子。
 別にあてつけじゃありません、
 たまたまっす。
「ビネガーの酸味が効いた、
 爽やかな豚肉カレーになります」

 熊さんの体が一回り、膨らむ。
 どこかに自転車の空気入れ?