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料理に恋して/カレー編

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         8

 阪急の関大駅まで歩いて、
 くるりとUターン。
 もう一度、
「ここから、やり直したい」

 見た目はおばさんでも
 新入生のつもりで歩く。

 おばさんにしては
 きれいなつもり。

 同年代のおばさんと比べ、
 所帯染みた感じはない。

「まだまだ行ける」
 わたしは自分に言い聞かす。

 弱さを強がりでオブラート。

「その内、おばさん検定が
 できて流行るかも」


         9

 ケチ臭いプライドと
 本物のプライドは違う。

 どうでもいいようなところで
 ぐちゃぐちゃ浪費するプライドと、
 肝心のところで
 すぱっと使うプライド。

         *

 自分の弱さを隠す強さ。

 自分の弱さを語る強さ。

 わたしは自分が
 こんなに脆いとは
 この年になるまで
 全然、知らなかった。

 引きこもりの人を
 安易に甘ちゃんだなんて言えない。
「いい年して、親にお金を
 せびるんじゃないわ」
 なんて言えない。
「信頼って観点から、
 自分の言動を見直してみて」
 なんても言えない。

         *

 海外の悲惨な子供たちを
 テレビとかで知ってたのに、
 見過ごしてきた自分。

 もしかして、
 身近なイジメを見て見ぬ振り、
 してるのと同じ?

 知らん顔しておいて、
 自分が困った時だけ、
 助けて欲しがる。
 周囲を冷たく感じる。

「都合のいい話だわ」
 当然の報いだわ。


         10

「報いを受けよう」
 口とは裏腹に、
 尻込みしてしまう気持ち。

 夢破れる、
 夢を諦めるって、
「こういうことなのね」
 身に染みて実感していた。

 単に知ってるのと、
 体感するのは全然、違った。

「こんなのあった?」
 子犬がうんこを
 ひり出してる瞬間を
 石の彫刻に仕立てていた。
「趣味悪い」
 と言ってから、
 可愛いと思ってしまう。

 わたしは辺りを警戒してから、
 出かけのうんこを
 素早く撫でる。

 数歩行ってから、
 その手にキスをする。


         11

 わたしは再度、関大の
 立派になった正門をくぐる。

 運を変えたかった。
 もう一度、やり直すつもりで、
 キャンパスを歩く。

 恩師に出会わないかなと思った。

 三歩の後、?マークが浮かぶ。
 その前に、恩師なんて
 いなかったことに思い当たる。

「文系と理系は違うわ」
 中学や高校とも違うわ。

 すべてが言い訳に思える。

 いい友達が欲しかったら、
 まず自分がいい友達になれ、
 ってはなむけの言葉を
 もらったのは小学校時代の
 ピアノ教室の先生から――。


         12

 昨日まで若かったのに、
 玉手箱を開けて、
 一気に老けた気がする。

 間の二十年がごっそりない人生。
 徐々に老けるんじゃなく、
 段階的にがくんと
 一気に四十才。

         *

 不況の波をもろに浴び、
 新地での仕事は今までも
 何度だって減ったことはあった。

 新地に出勤する前に、
 テレマーケティングを
 したこともあった。
 一日中、電話を掛けては
 商品の案内をする。

 競わせては
 優秀な人の机には旗が立つ。
 旗が立つと嬉しかった。

 そして、しばらくすると、
 喜んでる自分が
 世界で一番のバカに思える。

「まんまと踊らされてるわ」

 年齢のせいか、
 そんなところに行く気力もない。

         *

 わたしは大教室を選ぶ。
 後ろのドアから入る。

 先生のアシスタントか、
 社会人入学か、
 その程度に、
 学生らが見てくれたら、
 儲けものどころか、
「本望」


         13

 どうして、三十の時、
 せめて三十五の時、
「思い切れなかったのかしら」

 節目節目で正式に就職しようと、
 いくつか受けてダメだった。

 受からないことが誇り。
 落ちて嬉しいほど。
「一般の企業向けに
 受かり易い人が受かるだけ」
 芸術家意識はないけど、
 わたしには音楽があると思った。
 そして、この年までずるずる。

 受からなかったら、
 縁がなかっただけと考えた。
 そういう運命、
 音楽を続けろって
 メッセージに思えた。
 結果的に
「この方がいいのよ、きっと」
 って。