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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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風の分岐

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(だけど、あの作文・・・)

伊吹の優しさに触れてしまえば、いまの幸せを惜しむことは容易かった。
瑞の願いが叶えば、すべてが終わる。このささやかで小さな幸福は、終わってしまう。

(俺は馬鹿だ。伊吹に、情を移すなと自分で言っておきながら・・・)

いまさら、寂しさなど無意味なのに。

それでもいま幸せなのは確かで。
胸が温かいのも事実で。

(穂積とは、違う)

穂積の優しさや温かさとは違う。剥き出しで、隠そうともしない素直な感情。相手に悟らせない気遣いのできる穂積とは違う、恥ずかしいくらいに不器用な伊吹の優しさ。

(それが俺には、心地いい)

風が流れていく。夏から、秋へ。現在から、過去へ。
来るべき未来はどちらなのか。風に問うても答えはない。





夏休みが終わり、宿題が返却されてから伊吹は気づいた。
あの友だちの作文のページに書かれていた「おうちのひとからのコメント」に。

軽薄な態度や容姿には不釣合いなほどに、達筆な字で書かれた言葉。瑞からの返事。
たった一言。だけど、とても澄んだ美しい一言。


『ありがとう』


別れは確実に迫る。
比例して大きくなる親愛の情に二人が惑う間もなく、季節は秋を迎えようとしていた。






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作品名:風の分岐 作家名:ひなた眞白