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アキちゃんまとめ

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るんばおとこ


本物の、恋だった。本当の愛だと思った。
自分の「好き」に応えてくれる人が居るということが、こんなに心踊るものだと思わなかったし、自分の「好き」を同じだけ返してくれる人が居るだなんて思ってもみなかった。それでも本当に、私たちは両思いなのだ!
アキは鼻歌を止めて、1LDKのリビングのベランダからぐるりと室内を見回した。ふふ、と零れ出る笑いが止まらない。

アキが荒北と出会ったのは三か月前。職場恋愛だ。物腰は柔らかで笑顔がはにかむようで優しい。細い瞳は後輩から怖いと評判になっているというが、それを気にしている姿もかわいらしい。今まで男の人と付き合ったことが無いというアキを笑わずに、「じゃあ僕はすごくラッキーだね」と微笑んだ。
どうしてこんな優良物件を周囲が放っておいたのかはさておき、アキは幸せの絶頂に居た。両親への挨拶も済ませた、結婚の話もにおわせてくる。そして今日からは二人の生活が始まるのだ、と胸を弾ませた。

ガチャン、と玄関のカギを外す音が聞こえてアキは玄関まで小走りで近付く。

「おかえ――」

引っ越しの最中に荒北は「大事なモノを忘れた」と以前の住居まで急ぎ取りに帰っていたのだ。もしや生き物だろうか……とアキはひっそりと心配したのだが、荒北が抱えていたのは生き物ではなかった。
むしろ、生き物のほうが良かった。たぶん、おそらく、いや、絶対。

「あ、アキさん、ただいま」
「……あの、ソレ、ナニ?」

指をさすアキに、荒北は「あぁ」とぱぁっと笑った。

「これ、ずっとボクの家にいてくれたルンバなんだ。もう七年も前になるんだけど、ほらそのときにルンバブームがあったじゃナイ?そのときにお店で出会ってびびっときたっていうか、ともかくこの子だ!って思っちゃって、それからずっとウチにいたんだヨ」
「……へー?」

いまいち状況が呑み込めていないアキは、とかく荒北の言葉をとにかく消化しようと試みる。しかし荒北はアキの反応を気にも留めずにずんずんと室内に上がり、「ほーらここが今日から新しい家だぞー!」とルンバを放り出した。

「ま、待って!私、いま、ちゃんと掃除機かけたもん!」
「え?でもこの子に任せるとすごいキレイになるよ?」

ピコピコとグリーンランプを点滅させるルンバは間取りを記憶しようとうろつきはじめる。フローリングと毛足の短いカーペットの段を難なく乗り越え、ルンバは二人の寝室へと入っていく。荒北を見やるも、ルンバの早速の働きように頬をゆるませており、アキは嫌な予感を覚えて寝室へと足を進めた。
すると、

「――キャーッ!?」

こともあろうに、今夜こそは一線を越えようと用意していたベビードールがベッドの下から引き出され、もぐもぐとルンバに咀嚼されている。アキは急ぎルンバをひっくり返して下着を救出するが、もはやそれは下着というよりも繊維の割合が多くなっている。どうしたの、と遅れて寝室に飛び込んでくる荒北から下着を隠しながら、アキは思う。

「(――もしかして、この男……)」

アキと荒北、もといルンバ男の凸凹な同棲はこうして始まった。





――――カット!!



シーンカットの声が響き、止まっていた時間が再び動き出す。
アキははぁっと大きな溜め息を吐きながら未だに床を動き回っているルンバのスイッチを切った。

「……みどクン、私これやっぱやだァ……」
「ワガママ言いなや。キミィが持ってくる衣装なんか現代日本で着られへんやろ」

先進気鋭の映画監督、御堂筋翔にむくれているのは小野田アキ。演技界のサラブレッドという肩書きをひっさげてデビューした彼女は、やはりというか母親ゆずりのセンスを持っており、今回の映画でも自分の私服で撮影に挑もうとしたのである。
しかしながら京都伏見スタジオの専属スタイリスト小鞠に差し出されたのは、十把一絡げなオフィスカジュアルとフェミニンコーディネート。しまいに、ベビードールも薄ピンクというオードソックスさだった。アキはぷくりと頬を膨らませるがそれに左右される御堂筋ではない。

「それよりキミィの彼氏の方が心配やなァ」
「彼氏じゃなくて旦那だっつの」

荒北は撮影中の柔和な表情はどこえやら。常日頃の無愛想な表情に戻り、カチカチとルンバの設定を調整している。
何を隠そう、この映画、『ルンバ男』のモデルは荒北靖友本人であるのだから。
アキははぁ、ともう一度息を吐くと肩を落として空を仰いだ。



※俳優パロ。
『初めての両思い!初めての同棲!初めての――ルンバ?
同棲初日、彼氏が紹介してきたのはまさかのルンバ!?電化製品と私、どっちが大事?
御堂筋翔がまさかのコメディ!小野田アキ×荒北靖友、次の恋は前途多難なダメオトコ!?
この春公開、「ルンバ男!」』
2015/07/27
作品名:アキちゃんまとめ 作家名:こうじ