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アキちゃんまとめ

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ちびらぶ


夏の陽気が連日の猛威をふるい、実体を得た刀剣男子たちの精神も疲弊させてしまう中、その出来事は起こった。

荒北とアキはぎこちないながらも当初よりはずっと距離を縮め、先日の七夕では初めて採れた小麦粉を使って荒北が素麺もどきまで作って見せた。それでもアキはどこかさびしそうに、荒北の向こう側に誰かを見るように笑う時があった。荒北はわざわざそれを指摘しない。指摘したが最後、アキが自分の前で笑わなくなるのでは、という懸念があったからだ。
「野獣に首輪つけられるのは福富だけじゃなかったんじゃのー」などと間延びした声でにたにた笑う待宮に「ッゼ!」と吐き捨て、荒北は爪を噛む。親指の爪がぎざぎざに変形して、まるでこれぞ野獣の牙、とでもいうように尖っていた。これではアキに触れた時に痛がられてしまう。いや、それよりも彼女に明確な意思を持って触れたことなど無かったのだから、これは荒北の懸念でしかない。
まあ、そうじゃのう、と荒北の本丸で今剣を遊ばせながらごろ寝を決めている待宮が荒北の背中にぽつりとつぶやく。ここは荒北の本丸の一室で、今は全ての刀剣男子たちは日々の番に精を出している筈だ。開け放たれた障子からは緑の広がる庭と、その向こうの山々が遠くに見渡せる。蝉の声が、庭先から聞こえていた。

「――出逢いをやり直せるっちゅうなら、もっと違うモンになっとったんじゃろうな」

出逢い、か。荒北は初めてアキを見た日のことを思い出す。荒北の身だけを心配して、涙を浮かべながらも食い下がっていた少女。どんなにぞんざいに扱っても、アキは荒北の元へやってきた。初期刀の加州が、アキのことを疎ましく思っていたのも知っていた。そしてそれを諌めることもしなかったのは荒北だ。
もしも最初に、彼女への接し方をもっと優しいものにしていたら、今でも怖がられることはなかっただろうか? 荒北の疑問は猜疑に取って代わる。
アキの笑顔も、軽やかな声も。いつの間にか恋しいと思えども、認めてしまうのは勇気がいる。ここは元の世界ではなく、アキは自分の作り出した都合の良い幻なのかもしれない。
荒北は、欲していたのだ。何があっても、自分を受け入れてくれる人間を。
福富は荒北に前を向く意味を与えてくれた。新開は荒北の肩を叩き、共に行こうと笑い飛ばした。東堂は後ろから荒北の丸くなりそうな背を叱咤した。彼らは荒北にとってかけがえのない仲間だ。これ以上ない、戦友なのだろう。しかし、だからこそ彼らは荒北を無条件に赦してはくれない。
荒北はアキの与えてくる見返りを持たない好意や親切を、いつの間にか心地よく感じていた。アキの柔らかく温かい香りが近くにくると心がざわめき、同時に温かい灯が灯るのだ。けれども荒北は、それをアキに伝えることができない。
荒北のプライドと意地が、アキへの態度をそうやすやすと変えさせてくれないのだ。

「やり直せたらイイよナァ……」

ひそり、と呟かれた言葉。誰にも聞かれずにいた筈の言葉は、次の瞬間に違う形となって現れる。
ビリ、と指先に痺れが走ったかと思えば、そこから痛みにも似た波動が全身に伝わる。

「――ン、じゃこりゃァ!」

背後で苦しげな待宮の声が上がる。荒北はガタガタと震えはじめる指先をぐっと握りしめて無理矢理立ち上がる。そして咄嗟に走り始めた。

「主!」

途中で畑から戻ってきたのだろう加州へ返事をする余裕もなく、荒北はアキの本丸へと続く裏道へと入る。彼女は、と思うより前に、身体が動いていた。
薄い光の零れるあぜ道を走り抜け、彼女の持つ本丸の敷地内に辿り着いたと同時、荒北の視界に水色の髪の毛が見えた。

「や、やすとも」
「無事か!」

アキも異変を感じて荒北の元へ行こうとしていたのだろう。しかしその足には下駄は履かれておらず、足袋だけだ。更に顔色は悪く、青白い顔に赤みは差していない。着の身着のままで飛び出してきたのだろうか。
荒北がアキに駆け寄ろうとするが、利かなくなった足はもつれ、前のめりに倒れてしまう。アキが咄嗟に荒北を受け止めようと前に出るも、その身体も、油のさされていない機械のようにぎこちなく前へと崩れてしまう。

青い草の匂いを感じながら両者が顔を上げた時。
そこに居たのは、互いに見たことも無い存在。

「……だれ?」
「オメーこそ、だれだヨォ」

空色の髪はそのままに、随分と丸みを取り戻した顔立ち。
細まった特徴的な猫目が、ふっくらとした顔に似合わぬ姿。

ちょうど十歳は若返っただろう二人は、こうして奇妙な「初対面のやり直し」をすることになったのだった。




2015/10/11
※とうらぶDE幼児逆行

作品名:アキちゃんまとめ 作家名:こうじ