小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

アキちゃんまとめ

INDEX|64ページ/75ページ|

次のページ前のページ
 

三千世界の刀を屠り 主と添い寝がしてみたい-ご飯編


※薬研藤四郎と食事の幸福過程について


食べるってどういうことだい、大将。

人間の身体になってまだ不慣れなことも多々あった時期に、俺は大将に聞いてみた。大将はアキという名前を持っているが、俺たちはもっぱら、主や大将と呼んでいる。それはひとつの線引きでもあって、大将は俺たちを使役する存在だとどこかで認識していたからだ。
大将は俺の質問に驚いた顔をして、「そっか、ごめん!」と謝って、すすけた水場に向かって掃除用具を手に取り向かっていった。
俺は今まで大将が夜遅くにそっと何かを口にしているのを知っていたから、なんとなく聞いてみただけだった。けれど大将はそれを「俺も食べたい」という風に解釈したようだった。俺は大将が勝手の分からぬ炊事場で大きな音を立てはじめた時にようやくそれに気づき、止めるのも申し訳ない気がしてそのまま片付けと掃除を手伝った。途中から石切丸が手伝いなのか茶々なのか分からない様子で後ろで祈祷を始めたものだから、俺は歪む顔を抑えられなかった。
どうにか様になったらしい(といっても、俺の記憶は殆どが戦場のものだからこれが普通の炊事場かは分からない)大釜へ、大将に言われるがままに米と水を用意してざりざりと入れてみる。火種も用意していなかったから、火を起こすのも一苦労で、それから大将は蓋が無い!と悲痛な声で叫んでいた。

大将はここにきてから料理というものをしなかったのか、と聞くと、大将は首を振った。大将は今まで夕暮れ時に政府から運ばれてくるものをどうにか口に入れて生きていたらしい。それならそうと早く言ってくれれば、俺たちだってこの見渡す限りの土地に鍬を立てることだって厭わなかった。野菜や米を食べて人間は生きていくことは、俺たちだって知っている。人間の傍にいた記憶があるのだから。
かくして大将は米を炊いた。炊き上げた、ではない。多分。
手で掬おうとしたところを止められ、木べらをしゃもじというものの代わりにして持ち上げた米はぬるりとしていて、口に入れるとべちゃっと広がった。噛んでみるとごり、とぬるいもののなかから硬いものがでてくる。歯の間に挟まって、嫌な感じだと俺は思った。けど大将が集まってきた皆に向かって泣きそうになりながらごめんね、ごめんね、と謝っているのを見て、俺は無言でよく分からない米を口に入れ続けた。
これが失敗したものだ、ということに、生憎俺たちは気付かなかった。なので俺や長谷部はもくもくと口に入れて、噛んで、呑み込むということを繰り返した。
大将がどうして謝っているのかも、この時の俺たちにはよく分からなかった。
何故なら俺たちは食事を必要とせず生きてきたからだ。この身体は刀で、人間のものとはやはり違う。喋る場所から何かを取り入れるということに人間が恐怖を感じていないということが不思議だった。

そしてきっかけはいつも突然だ。

「えぇっ!薬研ってこんなの食べてんの!マズっ!」

他の本丸に居る、弟である乱藤四郎(みだれとうしろう)が俺が口に入れているものを横からつまんでそう言った。俺は大将が作ったものだし、そもそも俺たちは食事というものを必要としないものだからなんでもいいと思っていた。乱はウチの本丸のご飯おいしいよ!と無邪気に俺に言ってきて、それに便乗した他の兄弟たちも次々に口を揃えて主張してくる。俺たちは、あちらの加州清光(かしゅうきよみつ)にしてみると「愛されてないごはん」を食べているらしかった。
他の刀剣男子たちがあちらの食事はどんなものかと訊ねている中、俺はそっと席を立つ。隠密行動はお手の物。それから炊事場に居るだろう大将の元へと向かう。
大将が炊く米は相変わらず中が硬いしべったりとしている。それを頑張って握り飯の形にしようとしているのだけど、最後には少し崩れてしまうらしい。

「大将――」

言いかけて、やめた。炊事場に大将以外の人間が居た。乱の本丸の審神者であるヤストモという男だ。あの男はどうやら大将が命を張る程の男らしいが、俺には分からない。人間はそうしていかにも情というものに流されやすく、最も大事なものとして君臨させるらしい。

「上手く炊けないの……おみそしるも、うまくいかないし」
「お前が釜で料理できると思ってた方がオドロキだわ」

大将はヤストモに料理の相談をしているらしい。

「美味しいご飯を食べさせてあげられたらって、思うの」

大将は俺たちにどうにかうまいものを食べさせようと思っていることは知っていた。俺たちは刀だから、料理の方法論はすっからかんで、たまに見かける料理の指南書の文字も読むことができない。何が書いてあるか分かったら、大将に助言くらいはできたかもしれないが。
大将とヤストモはそれから何回か言葉のやりとりをして、最終的に大将にヤストモが料理を教えるということでまとまったらしい。俺は手にした膳に乗せられた米を見下ろして、再び元の道を引き返した。
歩きながら手ですくって米を口に入れる。やはりさっぱり食べ物の良しあしは分からない。
だが、俺は大将の作ったものなら全部「美味い」と思う。それも人間には分からない感覚なのだろうか?だとしたら、勿体ないと思う。何をどう料理したかではなくて、誰が作ってくれたかということで美味いか美味くないか決まるのだから。
開け放たれた障子の向こうで、風に青葉が揺れている。日の光を反射しているのは葉についた小さな水滴たちだ。
米粒を一つ、奥歯で噛む。珍しくぷちりとした軽い歯ごたえを残して綺麗に潰れたそれをゆっくり噛み締めながら、俺はヤストモの料理は食べたくないな、と思った。



※刀剣男子は元は無機物で現在は付喪神なんだから、食事というものをよく分かってないんじゃないか、と思った結果。(2015/05/12)
作品名:アキちゃんまとめ 作家名:こうじ