アキちゃんまとめ
アキはじっと荒北の掌に乗せられた石切丸を取り、自分の膝に置く。それから荒北の両手にそっと触れる。荒北は咄嗟に自分の手を引こうとしたが、上手く身体が動かず、アキの両手に包まれる自分の手を見ていた。
「……離せよ」
アキは無言で首を振り、両手で包んだ荒北の掌を自分の胸に寄せる。ぎゅっと、しかし強すぎない力で握られ、荒北の手に熱が戻ってくる。それから忘れていた手のひらの痛みが戻ってくる。
アキは何も言わずに荒北の手を抱き、ぽろりと涙を零した。ぎょっとしたのは荒北と薬研で、薬研などはどうしたものかとオロオロとするばかりだ。
荒北もアキの両手から伝わる温かさを振りほどくこともできず、ただされるがままとなる。
そのうちに荒北とアキの刀たちが気配を辿って集合し、そう広くない部屋はいっぱいになる。
加州や乱などは待宮の首などすぐに刎ねてしまえとがなっていたが、ともかく話を聞いてからだという三日月の一声で二人とも口を噤んだ。
「蛍丸、山姥切、今剣の本体である刀身は俺が持つ。現身たちは歩かせろ。その人間は適当に馬に乗せて落馬しないよう固定しろ。長谷部が手綱を引け。何かあった時は容赦なく切れ」
黄金の鎧にくすんだ汚れをつけた蜂須賀が指示を出す。こういう時は三日月や長谷部が決定権を持っているのだろうと思っていた荒北は少しばかり驚いた。その視線に気付いたのか、未だぐすぐすと鼻を鳴らすアキの肩を抱いている光忠が答える。
「蜂須賀くんは主の初めての刀なんだ。君のところの加州くんみたいにね。だから主との付き合いも一番長く、信頼されている。彼は現実的でもあるし、口でいくら反発していても、主の本心に反することはできない。そういう性質の刀なんだ」
「フゥン……」
荒北はおざなりに返事をしながら自分の手を改めて見下ろす。アキが自分の着物を裂いて、応急処置でぐるぐると巻いてくれた手がそこにある。
アキの飼いならしていた馬たちは闇夜が去ったと共に主を探して戻ってきたが、荒北の連れていた馬は戻ってこない。これは歩いて戻らなければならないのか、と荒北が内心で溜息を吐いていれば、背後から裾を引かれる。
「なんだヨ」
「一緒に乗って……」
か細い声でアキに頼まれ、荒北はぐっと息を詰める。異論を唱えるだろうと思っていた長谷部や薬研も口を噤んでそっぽを向いていた。荒北は一回だけ小さく息を吐くと頷いた。
両手で手綱を持ち、横抱きにしたアキを前に座らせる。盗み見た瞳は、まだ赤い。
「さぁ、帰ろうではないか!」
三日月の声に皆が動き出す。馬上から見る朝日は、驚くぐらいに眩しかった。
※救出編終了
2015/11/2