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アキちゃんまとめ

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三千世界の刀を屠り 主と添い寝がしてみたい-10


アキの本丸まで連れてこられた待宮は刀剣男子に監視されながら懇々と眠り、目を覚ましたのは三日も経ってからだった。そして唐突に目を覚ましたかと思えば、周囲を見渡して盛大に顔を歪めた。急ぎ抜刀の構えをする血の気の多い刀剣男子たちをよそに、冷静にアキと荒北を呼んだのは意外にも蜂須賀であった。
二人がそれぞれ待宮の元を訪れた時、待宮の首元には薬研の持つ短刀が突き付けられていた。

「大将はこいつに近付くな」
「薬研くん……!」
「なんじゃ物々しいのう。早うコイツをどうにかしちゃれ」

ぶちぶちと待宮が口を尖らせながらぼやく。その姿に敵意は感じられない、というよりもあまりに自然体すぎて逆に罠ではないかと思わせるくらいであった。むしろ気安いといっても過言ではない態度に、自然と荒北の眉が寄る。

「オイ待宮ァ、テメェ散々引っ掻き回しといてソレか?」
「ハァ? 荒――」

言いかけて、待宮の表情が一瞬だけ固まる。それから横並びになっているアキと荒北の顔を見比べ、考え込むように顎を引いた。急に黙った待宮を訝しんだ荒北が一歩踏み出し、加州に呼び止められる。ずかずかと一メートル程度の距離まで近付いてきた荒北を制したのは、他でもない待宮だ。

「お前、本当に荒北か?」
「ッゼ! ガチで脳までイカれやがってんな!」

今や一本の刀剣男子も従えていない待宮の胸倉を荒北が掴みあげる。薬研の持った短刀が首元を掠め、微かな傷が作られる。着慣れない和装であろうに、待宮は息苦しさから多少唇を歪めただけに留まった。

「お前じゃ話にならん。嬢ちゃんと話させぇ」
「ハイそうですかって言うと思ったワケェ?」
「あっちじゃ誘拐騒ぎになっとったけぇ。そいつの姉ちゃんなんぞ半狂乱じゃ」
「――!」

待宮の言葉に、アキが大きく肩を跳ねさせた。唇がわななき、傍らの三日月を呼ぶ。
三日月は、あいわかった、と何も指示されていないにも関わらず了承の言葉を紡ぎ、荒北と待宮の間に割って入る。

「俺の主もコイツと話したいという。お前は広間で待っておれ」

アァ?!と荒北ががなるが、三日月は一歩も引かない。それどころか荒北と共に来ていた加州と岩融の二者にも退室を促す。代わりに、と長谷部を部屋の外に待機させるよう言づけた。

「何かあれば長谷部にお前たちを呼ばせに行く。その前に俺たちが首を刎ねてやるがな」

そう笑った三日月の瞳に嘘は見えず、荒北は渋々と頷くしかなかった。
荒北とその刀剣男子たちが席を外し、室内にはアキと三日月と待宮、そして待宮の喉元に未だ短刀を突き付けている薬研となった。

「アー……無事じゃったか」

待宮の遠慮がちな声に、アキの瞳へ水の膜が張る。待宮の言葉に、忌々しい骸骨たちの臭いは無い。姿は若くも、アキを気遣う声色は見知った「待宮おじさん」のものだった。

「ま、まちみゃ、さん」
「言えとらんわ」
「わたしのこと、わかる?」
「おぉ。お前の父ちゃんも母ちゃんもよく知っとるわ」
「ほんとう?」
「インターハイじゃあお前の父ちゃんに、やまなみレースじゃあ母ちゃんに苦しめられたけぇの」

アキは苦笑する待宮に、勢いよく飛びついた。咄嗟に薬研が短刀を引き、代わりに三日月が抜刀する。それは待宮の次の行動によって如何様にもできるぞ、というポーズでもあった。

「おーおー、荒北があんな姿じゃけぇ、お前さんも忘れとるもんかと思ったわ」
「や、やすともは、私のこと、覚えてない」
「なるほどのぅ……」

アキは待宮の胸に縋り付き、涙を零し続ける。
冷たく染み込んでいく水分は待宮の胸元を変色させていくが、待宮はアキの髪をなでてやる。小さい頃、そうしてやるとアキはとても喜んだ。髪の毛は女の命ってママがいってたの、と屈託のない笑みで待宮に胸を張っていた過去を思い出す。

ぽつりぽつり、とこんがらがった紐をほどくようにアキは今までの事を話し始めた。
自分は、突然ここに連れてこられて審神者になったこと。荒北は自分のことを覚えておらず、待宮と同じく、敵に操られて自分を殺しに来たこと。それを政府が「手違い」と称して、正式に審神者に任命したこと。そして荒北は高校生、おそらくインターハイ後ほどまで心身ともに逆行していること。
対する待宮も、自分の記憶の内を伝える。自分は元の世界で、消えたアキを追って神隠しについて調べていた荒北にとあるレコーダーを託されていたこと。荒北までも行方不明になった後、自分がそのレコーダーを再生しようとしたところから記憶がないこと。気付いたら、今のような高校生の姿であって、アキたちを襲撃したことはよく覚えていないこと。
二人が自分たちの今までを話している間、薬研と三日月はただ静かにその言葉たちを聞いていた。襖一枚を隔てた場所の長谷部も何も言わない。

「じゃあ、待宮さんも、どうしてここに来たのかは分からないの?」
「腹立つことにのぉ」
「そう……」

待宮からようやく身体を離したアキは目元を擦りながら鼻をすする。

「擦るなや。ほんにお前さんは予想外なことばっかするのぅ」
「だって、」
「まぁ、あいつらの娘じゃけんのぅ」

に、と待宮が口元を引き延ばして笑う。アキもつられてくしゃりと目元をゆるめ、泣き笑いの表情となった。

「しっかし荒北のヤツ、嬢ちゃんのことを忘れとるなんざ、帰ったらあの鉄仮面たちにチクっとかにゃあ」

待宮はアキをそっと自分から離して座らせ、その場に立つ。薬研が短刀を握り直すが、それを止めたのは三日月だった。

「会話からして、主とお前は、知り合いなのか」
「そうじゃ。今すぐ信じろっちゅうことは言わん。しかしなぁ、ウチの奴らも少しは役に立つと思うんじゃが?」

確かに待宮の持っていた刀剣男子たちは蛍丸をはじめ、ある程度の練度を持った手練れたちだった。こう言っては悪いが、荒北のところの刀たちよりも即戦力になりうる。
そしてなにより――

「主」

三日月はアキと真っ直ぐに視線を合わせ、問いかける。

「こやつを赦せば、主の心労は軽くなるのか?」

アキは三日月の放った意外な質問に目を見開いた。

「我らは、主の刀。自我はあれども、全ては主のために生きておる」

三日月の言葉に、アキはこくりと唾を飲む。しかし拳を膝の上で握りしめ、真っ直ぐに三日月を見つめ返して確かに頷いた。
そうか、と三日月は微かに笑う。アキの隣で薬研が大袈裟に溜め息を吐いて短刀を納めた。

「だがな、俺っちはお前のことを信用しちゃいねぇぜ。怪しいことをしやがったら即刻斬り捨ててやる」
「おぉ怖い怖い」

エッエッエッ、と特徴的な笑い声をあげながら待宮は部屋の外へ行こうと足を踏み出す。そこにアキが慌てて駆け寄り、その左腕にしがみついた。これにぎょっとしたのは、横をすり抜けられた長谷部で、金魚のように口をぱくぱくとさせている。アキにしてみれば待宮の姿が若くなっているとはいえ中身は「待宮おじさん」であって、現実世界での癖が出ただけであった。
しかしそうとは知らない荒北が、足音を聞きつけて広間から顔を出した瞬間の表情といったら、待宮が元の世界に帰ったら向こう十五年はネタにしてやろうと思うくらいのものだった。

「テメッ!な、なにしやがってんだヨ!離れやがれ!」
作品名:アキちゃんまとめ 作家名:こうじ