アキちゃんまとめ
アキの腰に手を回し、べったりと撫でさする様に引き寄せているのは、待宮だった。
「イヤッ!離してッ!」
「おぉ、威勢がエェのう。気の強いオンナは嫌いやないでェ」
待宮は身体に肋骨のような細く白い甲殻を纏わりつかせ、刀剣男子たちを挑発するかのように空へと進路を取る。跳び上がる、と形容しても良いだろうその動きに、長谷部が抜刀する。荒れる馬の背へと踏み込み、中空まで跳ぶも、けらりと笑った待宮は軽々しく距離を取った。
混乱に乗じて波のように押し寄せる小さな骸骨たちが足下にさざめきを作り、足を踏み出す度に足の裏で奇怪な音を立てる。骨の折れ、内の臓をすりつぶす感触。
石切丸が横一閃で薙ぎ払うも、尚もそれらは刀剣男子たちの足を取る。馬は混乱の渦中にあり、もう乗れたものではない。
「人のモンに手ェ出す趣味は無かったんじゃが、まぁエェか。初物は美味いしのぅ」
アキは地上数メートルの中空に放り出される恐怖も厭わず、待宮の手を振りほどこうともがいたが、それより先に待宮の顔がずいと近付く。きらりと瞳の奥が瞬いたかと思えば、かくりとアキの全身から力が抜けた。
「おい!」
「待てっちゅーのに待つ輩がおるかえ」
そのまま暮れ行く空に消えていく待宮を、刀剣男子たちが躊躇うこともなく追う。先程までは本当に余分な気配などしなかった。だが、今ならば待宮という存在を認識し、更にそれが使役する骸たちの気配も覚えている。無言で走る刀剣男子たちを、荒北はどうしたものかと一瞬だけ逡巡する。しかしここで追う道理が無ければ、行かない道理もない。荒北は足下の異形たちに気を取られないように、我武者羅に足を動かした。
2015/08/24
夜明けはまだ来ない