アキちゃんまとめ
キミは母親に似ていない
キミは母親に似ていない
「やすともー!」
いつの間にか真似し始めた旧友からの呼び名。きっと彼女の母親が自分のことを名字で呼ぶからなのだろう。ナァニとわざとらしい面倒くさそうな声で返せば、それをもろともしない勢いが背中にぶつかってきた。
「重てェヨ、アキちゃん」
「あのね、今度の日曜日暇でしょ?新しい服を買いたいからデートしよ!」
女子特有のキラキラとした目に見えないオーラが荒北の背中にずしりと響く。これは何の因果だろうか。アキちゃん、と荒北が呼ぶ彼女は、昔、もう十年以上前に僅かばかりの恋心を抱いていた相手の娘である。今年で中学校に入学したばかりの彼女は、在りし日の母親のように髪の毛を染め、自前であるゆるいパーマがかった髪の毛を背中の中心まで遊ばせていた。
「暇って決めつけんじゃねーヨ」
「でも大きな仕事が終わったところだよって新開さんが言ってたもん」
ぷくぷくと頬を膨らませる表情は彼女の母親からは想像もできない。感情表現が不器用だったな、と目の前に居る少女と初恋の相手を比較してしまい、荒北は心中で大きく溜息を吐いた。
今でも簡単に、生まれたばかりの彼女を腕に抱く母親の顔を思い出すことができる。下手な作り笑顔ではなく、心の底からせり上がってきて零れた微笑みに場違いながらドキリとした。それから、今でも胸に刺さった棘は抜けてくれていないのだ、消毒すらさせてもらえていないのだと再認識した。
「女の買い物って長ェし嫌」
「ネ、お願い!新しくできたモールに行きたいの、車出してくれたらズダバのキャラメリアルマキアートおごってあげるから!」
とうとう荒北の背後から肩をゆさゆさと揺さぶりながら彼女はピイピイと雛鳥のような声で懇願した。甘やかしても誰のためにもならない。けれどこうも懐かれては邪険にもできない。
「……分かったっつの、付き合ってやるヨ。だからってなんか奢ろうとか考えんなヨォ、年下に奢られるとか寝覚めが悪くなんだロ」
ほんとー!?と再び飛びついてきた彼女の体重を感じながら、荒北は今週末までのスケジュールを脳内で調整する。車で彼女の家の前まで行ってやろうか。そうしたらきっと、見送りに彼女の母親が出てくるだろう。けれども荒北は自分の思考の女々しさに、今度こそ実際に溜め息を吐いた。
まったく、この世は理不尽だ。
*坂道くんと巻ちゃんの娘のアキちゃんと荒北さん。