アキちゃんまとめ
「抱き上げてあげられなくても?」
「でも俺を抱きしめてくれた」
「お出かけできなくても?」
「今、俺と出かけてるよ」
だからね母さん、と俺は続けようとする。母さんの顔が水滴で歪む。あぁ、なんて格好悪い。あの日のチビのように泣きわめくのは俺らしくない。全然、似合わない。
「……かえってきてくれて、ありがとう……」
――もう一度、俺の母さんになってくれて、ありがとう。
俺の俯いた顔から零れる多くの水滴を母さんの掌が受け取りながら俺の頬を、その指先が滑っていく。俺がしゃくりあげる音が遠いさざ波と一緒に混ざって、一つの塩水になっていくような錯覚を受けた。母さんは俺が泣き止むまでずっと俺の頬を撫でて、目尻を拭い、抱き寄せ、頭を撫でて、それからずっと俺の名前を呼んで、ありがとうと言ってくれた。それは神様の天啓なんか比べ物にならないくらい素晴らしい響きで、俺と母さんはその日の夕日が沈みきるまでずっとそうしていた。
2015/03/11