貯蔵庫 《2018.7.27更新》
献花
ここ数ヶ月、週に5回は通うある国道で
白いガードレールに花が手向けてあるのを見かけた。
それはまだ粉雪が舞い散る1月ごろで
「事故ったんだ…」くらいの感覚だった。
桜の花が満開になって
いたずらな春風がその花びらを揺さぶって
国道に花吹雪が舞い踊るなか
白い菊の花は密やかにそのガードレールに括りつけられて
そこだけ季節が止まったかのようにただ哀しみを湛えて咲いていた。
「とても大切な人」を亡くしたんだな。
毎回見かける献花は枯れることを知らないのか
いつも生き生きとそこにある。
あるとき、トロトロと渋滞する中
イライラと車のアクセルをふかしていたら
ヒョイとガードレールを乗り越える女性を見た。
両手に菊の花を抱きかかえ
愛おしむように地面を撫でて
瓶の中の水を替えまだ瑞々しい花を生けなおしてた。
あれから半年近く経つのに
未だ見かけるその花は生き生きとしてそこにある。
呪縛された魂が彼女を呼び寄せるのか
それとも彼女の叫びが魂の浮遊を許さないのか
深く愛し、愛されていたんだろうね。
この道を通るたびに止まったままの時間を感じてしまう。
この花が枯れたころ彼女が前を向いて歩き始めたんだと
そんな日が早く来ればいいのにと想像だけの想いを投げかける。
昨日もその花は生き生きとそこにあった。
“忘れる”という作業はきっと
やさしい思い出だけを覚えててという
天から注がれる思いやりかもしれないな。
あたしたちの時は流れて
置き去りになるあの時があって
それは自然の摂理。
「辛い」を乗り越えて
「淋しい」を静かに過ぎて
また思い出すときには
元気になってくれてたらいいな。。。
作品名:貯蔵庫 《2018.7.27更新》 作家名:遊花