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貯蔵庫 《2018.7.27更新》

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文字のおかげで


寝たきりだった近所の娘さんが亡くなった。
憔悴しきったご両親が涙ながらに語ったこと。

「この子はね、病気のためにしゃべることも出かけることもできなかったけれど
 私達の知らない世界でたくさんの友達を持ってたの。」

私達の知らない世界。
それはネットでの交流だった。

遺影の前でおかあさんが
「その文字をね…拾ってみたいの。でもパスワードがわからなくてね…。」

難病でしゃべることもできなかった我が子の無念さ
今まで生きてきた証として書き記した言葉たち
この子の心を覗いてみたところで
後悔やら、無念やら、虚無の気持ちは拭えないのだろうけど
それでもね、触れてみたいとおっしゃる。

あたしにも経験あるからわかるよ。
さまざまな彩りの文字を
何度も何度も何度もネットの海に投げてきた。
それで潰れずにすんだから
彼女もきっとここ(ネット)に自分の居場所を見出したのかもしれないね。

身体がご不自由な方もそして心が病んでる方も
ネットを通じて‘自由’を手にして
少しずつ少しずつ元気を取り戻せる人もいらっしゃいますね。
誰にもいえない胸のうちを文字にすること…
あたしたちの世代でいえば「日記」で
ただ一方通行の自分だけの想いでしたが
ネットはその文字を電波に乗せて飛ばすのですから
やはり誰かに気持ちを投げ返してほしいんですね。

「あたしの心を拾って…」

そういう想いを込めてパソコンの電源を入れて
声にはならない言葉を綴る。
文字は残るからそのときの確かな気持ちを再び抱くこともできるし
自分の文字が自分自身の支えになることもある。

そうやって毎日を力強く生きてこられたんでしょうね…。。。

「おかげで命が繋がりました…」

おかあさんが静かにそうおっしゃいました。
作品名:貯蔵庫 《2018.7.27更新》 作家名:遊花