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瀬間野信平
瀬間野信平
novelistID. 45975
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骨折り男とシルクの少女

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彼が花を手向ける。

「……まだしてやれないのかよ、葬式。」
「出来るとでも?」
「そいつを言うなぃ。」

口調こそふざけているが墓に向けている彼の目線はいたって真面目なものだった。

「なぁ、町から出たらどうだ。」
「出てどうする、この疑心暗鬼の世の中風来坊なんかが入ってきたら捕まえて処刑さ。それよりも親父を置いていけないよ。」
「ただ今のままだと絶対に親父さんの葬式は出来ねぇぞ、それもわかってんだろ?」


父は疫病で死んだ。


町から帰ってきた使いの男はそう告げると僕も病があるかのように小屋から逃げた。

「小屋が病をまくかっつの、建物に疫病が感染すんならした瞬間都市一個壊滅さね。」
「違いない。」

父の遺体は小麦と引き換えにしろと流れ者に脅され、貯めた小麦は消えた。
飯に飢えた流れ者達が運んだ父の遺体からは何もかも剥ぎ取られていた。
唯一救いであって救いでなかったのは父の体には欠けた部分が無かった事だと言えば最早お笑い草だ。
父の体には多少のすり傷こそあれ生きているときと目立った違いは無かった、月並みな感覚だが今にも生き返りそうな様子だった。

「となれば話は戻るがそのまま家持つのかァ?こんなとこで?」
「いざとなれば水車がいるさ。」
「いざの時ってどんなときだろうなそれ知りたかねぇぞ。」
「疫病神の家に女の子が来るわけもないだろうよ。いざの時も考えたくなる。」
「子が産まれたら是非とも教えてくれ。」
「真面目に言うんじゃない。」
「まぁともかくこの町の中の奴ならまず無理だぁな。」
「僕の心配はしても仕方ないだろう、そういう君はどうなんだ。」
「……世の中金だよなきっと。稼げば別さウン。」

深くは聞かないことにした。

「それにしても珍しいかもな、君がそんな話題を振ってくるなんて。何かあったのか。」
「……気付いちまったか……実はな」
「あ、退屈しそうだから今日は良いや。」
「さわりのさの字も話してねぇぞおい!!!」
「出会いがない僕が失恋話聞いても退屈だろう。」
「違ェ!!失恋じゃねぇよ!!」
「じゃあ失恋にすらならずに声をかけた時点で断られたのか。」
「違ェ!!見たら顔背けられたんだよ!!」
「最速だ。記録樹立かもな。」
「何のだよ!!」

あらんかぎりの声を上げてから疲れたように彼は肩を落とす。

「ともかく、言いたいのはそこじゃねぇよ、お前には俺と同じ轍を踏むなと言いたいんだ。」
「いや僕は」
「忠告だ、町の入り口近くの樹、そこにいる女には手を出すなよ、良いな?」

そういって彼は手を振りあわただしく小屋を出ていった。



☆骨折り男とシルクの少女★