秋の名残り
ああ、私はもうすぐ死ぬのだな。
瞼すら動かせないまま史緒音は思う。
思春期を迎えつつある双子達のこと以外は、この世にさして未練はなかった。自分は為すべき事を全てやり遂げたのだから。それでもこの十数年、穏やかな日々の中で、心の奥底で唯一恐れていたことがある。
目が覚めると家の中に誰もおらず、 まるで幼かった日々そのままに部屋の中にひとりきりで、今迄の生活は自分の密やかな願望が呼んだ儚い夢に過ぎないのではないだろうかという、そんな恐怖だ。夜が白む度、私はいままで何度その予感に苛まれながら目を開けたことか。だがそんな恐れも、もう終わる。