秋の名残り
不意に視界が暗転した。目に前にいた筈の夫はかき消え、彼女は暗い廃園の中に立っていた。嵐の前の夕暮れのごとく太陽は見えなかった。夫と子供達は何処にもおらず、暗黒の冷たい世界に彼女はひとりいた。思わず身体をかき抱いて彼女は自分の指が少年のごとく白く骨ばっていることに気付いた。腕も足も体も、硬質な少年のそれになっている。かつての忌まわしい、堕天使のごとき少年の姿に戻った彼女は無防備なまま暗闇に立ち竦んだ。喉は寒さに縛り付けられ、悲鳴を上げることも泣くことも叶わなかったが、唯一残された聴覚で、自らが死の世界の境界に立っているのだと悟った。