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ブラックウルフ
ブラックウルフ
novelistID. 51325
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対馬で別れて

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「はい、かしこまりました、モスコミュール3つですね」
 カクテルが出来るまで、俊子と木実が二人でひどく話しが盛り上がっていた。
 私はちょっと手持ちぶさたになっていた。
 マスターがテーブルに手製のピザを運んでから、ふたたびカウンターの向こうに戻ってきた。
 話し相手に困っている私に目を配り、そして私と裕太との空間に声をかけた。
「お二人とも多分対馬の出身ですよね?」
「え、はい」
と偶然にも声が合ってしまった。
「でしょう、なんかそんな雰囲気だったんですよね、きっと地元の高校を卒業して福岡か大阪の大学に行ってまた対馬に戻ってきたというパターンじゃないですね?」
といかにもおしゃべり好きな雰囲気のマスターが言葉を繋いだ。
「私は、上野芳喜っていいます」
と言いながら、カヤックの絵が真ん中に描かれているスタイリッシュな名刺をさりげなく差し出してきた。
 自己紹介もそこそこに、上野さんは私の右隣の男性に
「小林さん、仕事のことを話してもいいんですよね?」と声を掛けた。
「ええ、はい構いません」
「こちらは鶏知病院で看護師さんをされている小林裕太さん!」
「あっどうも」
「それでこちらは?」
「あっ松村っていいます」
「それに、小林さんはカヤックもされていて、最近マイカヤックを買われて絶好調なんですよ!」
「マスターそんな絶好調だなんて」
 私はカヤックっていう言葉に惹かれた。そう言えば、昼間はカヤックのインストラクターをしていて、夜はカフェバーをやっている人がいるというのを聞いたことがあった。それがこの風音屋の上野さんだったんだ。
「カヤックされるんですか?」
「ええ、まあでもまあ、下手だと思いますけど、面白くて」
「海の波に揺られて気持ちいいでしょうね?」
「はい、それはもちろん海の上でゆったりと揺らされているってのは、なんだか心が落ち着いていい感じです」
「どうです?松村さんやってみませんか?」
とマスターがいってきたが、私は
「マスターがカヤックのインストラクターもされているんですよね」
「はい、カヤックのインストラクター兼マスターをしています、カヤックっていいですよ、美味しい空気を吸って、爽やかな風を浴びて。やってみませんか?」
「実は、私も中学の時に対馬の淺生湾でカヤックしたことがあります、ええ、そのときは女の子と一緒だったんですけど、すごく楽しかったんです」
 あれは確か同じクラスに栃原弥生さんという家がセレブな子がいた。そして、弥生からどうしても私に付き合ってって言われて、カヤックツアーに参加したんだ。私は、祖母と二人暮らしだったから、クラスの中で誰とでも友達になっていた。特に親がセレブだって噂さを聞けば、なんとしても親しくなっていた。それに、野外活動とか課外授業と言えば、男の子以上に活発にやっていた。やはり両親がいないから一層元気にしていないと、シカトされそうだったからだ。
 弥生と二人で行ったカヤックは、ロケーションも最高で、初めて海上で自然と一体となりながら、波も揺れに身を任せて最高の経験だった。
 カヤックの話しの合間に、裕太とお互いの仕事の話をした。
「お仕事は教員ということですけど、生徒さんの扱いってどうですか?」
「ええ、憎まれ口きく子供もいますけど、大体は純朴で可愛いいですよ」
「そうですか?僕も子供って大好きなんですよね、今からでも小学校の先生になれたいいなあって思っているんです」
「向いてます?子供ってずけずとと感じたままを口にするから、もしかしてナイーヴな裕太さんだときついかもしれませんよ」
「ナイーブ?そう見えるでしょうね」
 マスターがカウンターを出てテーブル席に行ったり、またカウンターに戻ってきたりして、そのたびにカヤック談義が始まった。
 結局、そのあとは、上野さんと裕太から、夜が更けるまでカヤックの楽しさを聞かされ続けた。
 翌朝、私は対馬州藻地区の対馬エコツアーカヤック場に行った。そこには、上野さん、それに裕太が来ていた。用意もそこそこに早速2隻のカヤックが海に浮かべられ、私と裕太は二人乗りに、上野さんは一人乗りに乗り込んだ。
 昨晩、裕太が「一緒に乗りましょう」と誘ってくれたから、裕太はマイカヤックを使わないことになった。
 私はカヤックの前席に、裕太は後席に座った。カヤックでは後方席の者がコントロールする。エコツアーの波止場の前を出たのは、午前10時30分。十分な日差しが降り注いでいた。私は後部席に座っている裕太のオールが目に入り、そのたびに裕太の手首も見えた。そして、裕太の両手首には幅4センチくらいの白い包帯いやサポーターが目に入った。 
「えっこれなんなの?」
「あっ、これってそうオール使いすぎたからサポーターを両方に付けているんだよ」
 そんなんだ、裕太って熱中すると手首を痛めるくらいにやるタイプなんだ。
 手首のサポーターのことが分かると、目の前に何の障害物もなく、広々とした浅茅湾をダイレクトに見ることもできる前席に、私は座った。前席では、遙か朝鮮半島を源として海峡を渡ってくるパワーを孕んだ風を顔に受けて、その風の由来に思いをはせた。
 上野さんが私たちの左約2メートルのところを走っていて
「今から一枚岩の鋸割り岩を目指して、小一時間漕いでもらいますから。今日は波も静かなんで楽だと思います。」と声を上げた。
 この日は丸一日のコースだったから、お昼のお弁当は上野さんが用意してくれていた。お弁当を食べて、うつらうつらと寝そうになる時間を過ぎたら、また元気になってしまった。
 午後2時、上野さんは「野いちごを探してきます」と言って私たちから離れていった。いわゆる古式の波止場に私と裕太が残されて、話題に困った。私は「ちょっと泳ごうかなあ」と言って、前の前の入り江に飛び込むことにした。私はTシャツを脱いでいると、裕太が
「ああ、何かあったらオレが助けに言ってやるよ」
と頼もしいことを言ってくれた。
 私は、お昼にほんの少しビールを飲んだことから気が大きくなっていた。
 私たちの座っていた古式の波止場の目前に、縦横500メートルくらいの入り江になっていた。入り江の外は思った以上に流れが速いのかもしれないが、入り江の内側なら泳ぎの下手な私でも大丈夫だろうと思って「ドブン」と飛び込んだ。
『冷たい』でも、肌に触れる海水が心地よい。海水を通して見える海底を見たら、白い砂の上に小魚が泳いでいた。私は小魚をよく見てみようと深みへと潜った。
 潜り始めたら、ブルーの小魚の群れがいた。「ええーーもしかしたら熱帯魚?」と思いつつ、ブルーの小魚を追いかけた。ブルーフィッシュの小魚は、縦横3メートルくらいの大きな一枚岩の下に潜り込んでいった。岩と岩との隙間にブルーフィッシュが逃げ込んでいった。
「くっそーもうすぐできれいな魚捕まえられるのに!」と私は意地になってきた。私から逃れるように、小魚は大岩の奥にさらに逃げ込んでいった。
「痛っ、左足が痛って」急に左足首が攣った。水深5メートルくらいはあった。
作品名:対馬で別れて 作家名:ブラックウルフ