最後の孤島 第2話 『世界一の国から』
【ジョー】(3)
まったくの時間の無駄であった! この島への怒りを通り越して、自分が嫌になるほどだ!
世界中にインターネットカフェがある世の中にも関わらず、この島には無線機すら無いらしい。世界一の国に住む私たちアメリカ人からすれば、もはやジョークの域に達している。
ただ、今もスマートフォンが使えないため、この島が通信の空白地帯になっていることは理解できた。せいぜい、その程度のことでしかないに決まってる。
どうやら、人間ぐらいは用意できるらしく、長老が島民を何人か寄越してくれた。さっそく、船を海へ早く戻してもらう。なぜか、あの少年と少女もいたが、手伝ってくれるなら構わないだろう。
「ほら、チップだ。この分、早くやれ」
島民たちのリーダー格らしき男に、100ドル札をやろうとしたが、笑いながら受け取ろうとしない……。
その男は、このあたりの現地人ぐらい日焼けしていたが、私と同じ白人のようだ。彼は移住者なのだろうか。他の島民たちの中にも、白人らしき奴は何人かいるようだ。
もしや、このセルカーク島とかいう島は、大金持ちに人気がある秘密の移住地なのか。それなら、チップを断ってもおかしくない。
島民たちは掛け声をあげながら、私の船を海へ押しやっていく。砂浜に重いクルーザーの跡が残るが、波にすぐ消された。
「1、2の3!!!」
最後の掛け声とともに、私の船は海に浮かんでいく。
さて、すぐに出航だ! このクルーザーに乗って、こんな島からさっさとおさらばだ! 早く文明社会に戻って、ビジネスに精を出すのだ!
「あの、この島からは出られないんですよ……」
私が船に乗り込もうとすると、あの日本人少女が、あの長老のような言葉を投げかけてきやがった! しかも、憐れみを感じられる表情と口調でだ!
「大丈夫だ! 私はアメリカ人なんだ!」
私が強く言い返してやると、少女は口を閉ざした。私の言い方が気に食わなかったらしいイギリス人少年が、私を睨んできたが、気にする必要など皆無だ。
私は、世界最強の国アメリカの人間なのだ! 世界一の存在である我々アメリカ人に不可能なことは無い!
輝く太陽の光が、私を神々しく照らしているのを感じる!
作品名:最後の孤島 第2話 『世界一の国から』 作家名:やまさん