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天月 ちひろ
天月 ちひろ
novelistID. 51703
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AYND-R-第四章

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そしてその戦術を使う決心をすると同時に
リーは三人とイルに対して心の中で詫びた。

「セイファさん、終わったら二人の治療を頼みます…!」

と言ってリーは結界の中にセイファを閉じ込めた。
セイファは驚いた。

そしてリーはそのまま床の剣を手に取る。

「……ありがとう、私は「仲間」を得られて幸せでした」

と言うと、リーはそのままその剣で
自らの体を貫いた。

セイファとイルが悲鳴を上げた。

物体は、大量のリーの血を浴びた。
そして、そのまま何かに苦しんだかと思うと
やがて地に落ち、動かなくなった。


リーは血を触媒とした、非常に効果のある術を使ったのだ。
代償が大きい分、威力も高い。
その上、量も多かった。

確実に物体に勝つためには、この方法しかないことを
リーは悟ったのだ。

案の定、物体は停止し、男も倒れて灰に帰った。
この術を破れるものは例え「裁断」のメンバーであっても
不可能だろう。
リーは最後の手段を「仲間」のために使ったのだ。


結界の解かれたセイファが、泣きながら自分に
駆け寄ってくるのを、リーはぼやけた視界の中に認識した。

リーは薄れゆく思考の間際に、ミクリィとミルファルの
無事を祈った。















「リファインド様、こちらの世界越えの受け入れ準備が
 整いました」

「…分かりました」

一行は、初めてリーがこの世界に来たときの
森に来ていた。

「えーもう出来たの?もうちょっと伸ばしてよ、イル」

「いいえ、準備が出来ました」

「あら、残念。つれないのね」

「あ、あはは……」

今日は、リーが元の世界に帰る日である。
三人はリーの見送りに来ていた。






あの後、リーは森の中で目覚めた。

見ると、三人共泣きそうになった顔でこちらを
覗き込んでいたが、リーが目覚めると、喜びで本格的に
泣き始めた。

リーはなぜ自分が生きているのかが不思議だった。
大量の血に魔力を載せて相手に放ったため、リーの
魔力もほぼ空になっており、自らに回復魔法をかけること
すら出来なかった。

リーは確実に自分は命を失うと思っていた。

「……い、イルさんが、私に回復魔法を教えてくれたんです…」

セイファが答えた。
元々回復魔法が使えそうな気配がしていたセイファに
イルが窮地で頼んだところ、本当に使えて
それでリーは助かったという。

「わ、私だけじゃありません……み、ミクリィちゃんと
 ミルファルさんからも力をもらって、や、やっと
 出来たんです……」

最初はセイファ一人では無理だったが、三人手をつないで
セイファに力を送ったところ、なんとか使えたらしい。

リーは三人に命を救われた事を知った。

「バカっバカっ!!リーのバカーーー!!何でそんなこと
 したのよでも生きててよかった、わーーーーんっ!!」

中でもミルファルの取り乱しっぷりは
想像を越えて凄まじく、リーを唖然とさせた。

したが、同時に安堵し、少ししてリーは再び気を失った。

(……良かったです、みんな無事で……)

失う間際、リーはそんな事を思った。







「……本当にありがとうございました。皆さんがいなかったら
 私はここにはいられませんでした。本当に、本当に
 ありがとうございました」

リーは深く頭を下げた。

「そ、そんな……っ、わ、私達の方こそ、い、いっぱい
 助けられて、め、迷惑もかけちゃって……!」

セイファはあわてた。

「そうそう、リーがいなかったら、今ここに
 全員いなかったよ。……もしかしたらこの世界も」

ミクリィはうなずきながら言った。

「そうね。私達はリーの命の恩人であると同時に
 リーは私達の命の恩人なのよ。…それでいいじゃない?」

ミルファルはウインクをしながら言った。

「…僭越ながら、私からもお礼を言わせてください」

チップから声が聞こえた。

「…リファインド様を助けてくださって、本当にありがとう
 ございました」

イルは深く頭を下げた。

「気にしないで、というかイルも恩人だよ。イルが
 いなかったら出来なかったんだから」

「そうね、誰かこの中の一人でもいなかったら、今ここに
 全員いなかったんだから」

「は、はい……で、ではみんなが恩人同士ってことですね……」

三人は笑顔で言った。

「……ありがとうございます…」

イルは照れたように赤くなった。
しかし、画面の外で声がしたと思うと表情を戻し、

「それでは残念ながら時間です。リファインド様、ご帰還
 願います」

と言った。
いよいよお別れである。

「…分かりました」

うなずき、リーは地面に書いた魔方陣の真ん中に立った。

「……やっぱり、私は連れて行ってくれないの?」

ミルファルがすねたように言った。
だが、

「でもいいわ。それなら私は私で「対策班」の
 一員になって見せる。それでリーについていくんだから」

と言った。

結局三人の記憶は消さないことにした。
リーが三人を信じた証でもある。

そしてリーがこの世界に居続けることは出来なかった。
脅威が取り払われた今「裁断」のメンバーが元の世界
ではない場所にいることは、その力の大きさゆえ
世界の均衡を崩しかねないのだ。


「で、でも……や、やっぱりそれ以外では、も、もう
 私達とは会えないんでしょうか……っ?」

セイファが悲しそうに言った。

「私も、いや。剣ももっと教わりたい。もっとリーと
 みんなといたい。でも……」

ミクリィが地面を見た。

それを見たリーは、三人に微笑んだ。

「……皆さんにお願いがあります。…もし、いつか
 他の世界で異変が起きて、私が任務に就いたら……
 また協力してくれませんか?」

とリーは言った。
三人とイルは驚いた。

「り、リファインド様!?そのような事例は前代未聞です!
 第一、何人もつれての世界越えの魔力消費量は
 いかりリファインド様でも消耗してしまいます!」

と言ったが
リーは首を振って、

「大丈夫です。消耗で済むならそれはまた回復します。
 そしてその消耗の代わりに彼女達が戦力として
 来てくれるのなら、安いものです」

と言った。

「……まあ、本当ならそんな危険な異変など
 起こらないに越したことはないんですがね」

と苦笑いした。

「い、いいんですか……?」

とセイファはリーに聞いた。

「こっちがお願いしているのですから、いいに決まってます」

とリーは答えた。

三人は喜んだ。

イルも渋々と言った様子だが、承諾してくれたようだ。

「……分かりました。有事の際は三人に連絡を入れます。
 そのチップもそのまま持っていてください」

と三人に言った。
チップは「対策班」の秘密に大きく関わるもので
任務終了後に回収する予定だったが、これも
リーとイルが三人を信じた証である。

「…分かった、大事に持ってる」

ミクリィは真っ直ぐに言った。

「い、いつでも連絡……待ってますね……っ」

セイファは胸に手を当て、そして両手にしっかりと
チップを持って言った。

「今すぐにどっかで異変起きてほしいわね」
作品名:AYND-R-第四章 作家名:天月 ちひろ