AYND-R-第四章
ありますね……」
三人の命を大切に思うなら、ここで置いていく方がいい。
万一、リーですら手こずる相手なら、今度は
庇いきれなくなるかもしれない。
誰かを失う危険性がある。
「…ですが、確実に成長しています。今回は急で
追いついていませんが、この世界にあった方がいい
戦力でしょう。……連れて行こうと思います、それに……」
「…それに……?」
イルは続きを促した。
「……それに……上手くは言えませんが、何も言わずに
行って、彼女達を裏切れません。ですが、言えば
絶対反対するでしょう。命の危険を覚悟でついてくると
思います」
リーはそう判断を下した。
「……そうですか…」
イルは嬉しいような、悲しいような表情をした。
「…………彼女達は……リファインド様の「仲間」ですか?」
少しの沈黙の後、イルは思い切って聞いた。
これは「支援」を超えた質問だとイルは思った。
思ったが聞かずにはいられなかった。
「…「仲間」……ですか……?」
言ってリーは考えた。
今まで「支援」以外、仲間などいなかったリーである。
考えて、考えて…。
そしてリーは答えた。
「……すいません、正直、分かりません。…「仲間」という
ものを私自身、あまり把握していないので……」
「……そうですか…」
「…ですが」
リーは思った。
「…ですが…?」
イルは聞いた。
「…おそらく、いくらか感謝しているんだと思います。
彼女達に対して…」
「……そうですか…」
イルは微妙な表情ながらも、少し微笑んだ。
「……そして、そのきっかけを作ってくれたイルさんにも
感謝しているんだと思います…」
イルは珍しく、驚きをはっきりと表情に表した。
が、
「……しかし、彼女らをプロテクトサポーターに
勧めたのは私です、ご迷惑ではなかったでしょうか…?…」
とためらいがちにリーに言った。
「……確かに、うろたえることは多かったですがね」
リーは苦笑いをした。
「……すいません…」
イルは頭を下げた。
「ですが、おそらく何か、それ以上のものをもらって
いるのでしょう。そして、だからこそ、それに対して
感謝してるんだと思います。…ですから、謝らないで
ください。イルさんには本当に感謝しています」
「……そ、そんな……」
イルははっきりうろたえた。
イルの顔は真っ赤である。
「…ですが、それもちゃんと、任務を無事に終えてこそ
意味のあるものだと思います」
リーは言った。
「…そしてそれも、無事に任務を終える手助けに
なってくれることになるかもしれないって思います…」
言いながら、リーはそろそろ自分が就寝出来ると悟った。
リーは夢を見た。
夢の中のリーは、また昔のままのリーだった。
人々が行きかう中、苦しんでいるリーは倒れたままである。
通行人の中には両親の顔を見かけた。
両親はリーに気付くそぶりすら見せず、そのまま
通り過ぎた。
リーは激痛に襲われた。
だが、いくらもがいても痛みは治まらず
むしろ悪化していった。
痛みに耐えきれず、痛みに降伏しても
痛みは治まらない。
リーは苦しみもがいた。
すっと痛みがやわらいだ。
温かいぬくもりがリーに伝わった。
怪訝に思ったリーだが、辺りに人影は見えず
そこには自分一人しかいなかった。
だが、何かの気配がする。
その気配から優しい気がリーに送られてきた。
リーはその気配にあらがえず、安らぎと共に目を閉じた。
そこで目が覚めた。
そして目に入ってきたのはセイファの顔である。
セイファの顔が上にあった。
「……あ……だ、大丈夫ですか……?」
「……セイファさん…?」
リーは不思議に思った。
なぜセイファの顔が上にあるのかと。
「う、うなされていたので……だ、大丈夫ですか……?
な、何か悪い夢でも……?」
「夢……?…!?」
はっとリーは気づくとセイファから起き上がった。
リーはセイファに膝枕してもらっていたのだ。
「す、すいません……というかなぜ膝枕を…?」
リーは疑問に思って聞いた。
「…あっ、ま、まだ寝てて大丈夫ですから……。
……え、えっと、昔おばあちゃんに私が悪い夢を見た時に
こうしてもらったんです……。それで……」
「……そうでしたか…」
リーは納得したが、
「…感謝しますが、でも、重かったでしょうに、しかも
若い女性が男性に対して、むやみやたらととる行為では
ありません」
と困ったようにセイファに言った。
セイファは小さく笑った。
「…ほ、本当にリーさんってお堅いんですね……」
と言い、そして
「で、でも何だか温かくって……安心します……」
と微笑んだ。
「……かないませんね…」
リーは困ったように苦笑いした。
少しの沈黙の後、
「……り、リーさん、ありがとうございます……」
とセイファが口を開いた。
「…?いや、この場合礼を言うのは私の方では…」
セイファは首を横に振った。
「い、いえ、そのことではなくって…」
改めてセイファはリーを見た。
「い、今まで何回も、私はリーさんに助けてもらいました……。
そ、それに、た、ただの道具屋の私を、リーさん達と
い、一緒に旅をさせて頂いています……」
そしてまた、セイファは照れたようにうつむいて地面を見る。
「そ、その上、我が身をかえずに、り、リーさんは
私達の世界を救おうとしてくれています……。
そ、そんなリーさんと、皆さんと一緒にいることが
わ、私には幸せなのです……」
セイファは目を閉じて、胸に両手をあてた。
「た、ただ町で道具屋をしているだけでは、み、皆さんと
出会えませんでした……だ、だから改めて、お、お礼を
言いたいのです……っ」
そしてまた、リーを見た。
「で、ですから、あ、ありがとうございます……っ!」
言ってセイファは頭を下げた。
言われたリーは驚いた。
これまで自分はただ単に任務をこなしていただけである。
礼を言われる覚えはない。
そう言ったが、
「い、いえ、それでもリーさんには……お……お礼を……
いいたいの……です……」
と言ってそのまま目を閉じ、床に倒れた。
リーは少し驚いたが、セイファは穏やかに寝息を立てている。
どうやら夜中に目が覚めて、そのまま眠かったようである。
話していながらも眠気に耐えきれず、寝てしまったらしい。
リーは自分のせいでセイファを起こしてしまったと
そっとセイファに謝った。
「……感謝しているのは、セイファさんの方だけでは
ありませんよ…」
と言いつつ、リーはセイファを魔法で寝床まで運んだ。
言われたセイファの顔が微笑んだ気がした。
そしてまた、リーも寝床に戻り目を閉じた。
もう悪夢にうなされることは少なくなるんじゃないか。
リーはそんな予感がした。
翌日、一行は森の魔力のひずみに向かっていた。
「……今回の相手は、「対策班」の任務の大本の可能性が
高いです。相手は世界規模の戦力です。戦えば命がないかも
作品名:AYND-R-第四章 作家名:天月 ちひろ