AYND-R-第四章
家臣の務めでござりまする」
「間違っているだと?世を見てみろ、とっくに間違っている」
王は祖父に言った。
「はいはい、その元凶が出しゃばらないの。さっさと
やられてくれない?」
ミルファルは鞭を翻しながら言った。
「娘よ、父に剣を向けられるのか?」
「すでに祖父に剣を向けたよ、あたしは」
ミクリィは剣を構えて言い返した。
「参らせて頂く……」
祖父は気迫をみなぎらせた。
「……気をつけてください。彼はどうやらあの物体に
操られているようです。ですが彼自身から強大な力を
感じます…。ミクリィさんとおじいさん、そして
ミルファルさんが上手く連携しても厳しい相手だと
思われます」
リーは冷静に相手の戦力をはかった。
「なら、あの物体を奪えばいいってこと?」
「いいえ、あの物体を奪えば、こちらが取り込まれて
しまうでしょう。破壊したいのですが、簡単に破壊出来る
とは思いません。破壊出来なければ、難しいですが
彼を気絶されるしかないでしょう」
リーは戦闘目的を絞って一行に言った。
「…セイファさん、絶対にそばから離れないでください」
「わ、分かりました……っ!」
言って、リーは以前よりセイファ達に
抵抗がないことに気付いた。
(…お、おや……?)
ちょっと戸惑うが、戸惑っている場合ではない。
意識を集中させる。
「ふふ、来い!」
そして、戦端が開かれる。
戸惑う暇なく、その声が戦闘開始の合図となった。
「さっさと目を覚ませ!」
ミクリィから鋭い一撃が王に撃ち込まれる。
王は難なくこれをかわして波動をミクリィに撃ち込んだ。
瞬間、ミクリィは強い力に引っ張られた。
波動は壁を壊し、突き抜けてどこかへ行った。
ミルファルが鞭でミクリィを引き戻したのだ。
「こういう使い方も出来るってわけ。女だし
鋭くも柔らかくなきゃね」
言ってそのまま王に叩きつける。
王は避けたが、体制が崩れた。
「失礼」
と言って祖父がそのまま剣を払う。
王から血がのぼった。
物体を庇い、あえて体を刃にさらしたのだ。
一瞬、それを見たミクリィと祖父の動きが
鈍くなる。
「これくらいで動揺するか?」
王はそれを見逃さず、波動を連発して叩きつけた。
動揺から意識を奪われていた二人は、何とか直撃は
避けたがかすっていた。
かすった部分から血が流れる。
それを見た王は満足げにうなずき、
「さっさと終わりにしよう」
と言って一気に力を開放した。
そして巨大な波動を瞬時に三人に叩きつけた。
その波動は大きすぎて避ける場所などどこにもない。
三人は波動に包み込まれた。
そして次の瞬間、王は倒れた。
「…そうですね、さっさと終わりにしましょう」
全員を魔力障壁で守ったリーは、余力を持って
王を気絶させていた。
「……はあ、やっぱこうなっちゃうか。…リーには
かなわないな…。あたしももっと強くならなくちゃね」
ミクリィは苦笑いしてリーを見た。
祖父は何が起こったかよく分からないようである。
「だからこそ、リーなのよ。そんなリーは、私は
大好きよ?」
と言ってウインクをした。
リーは対応に困った。
「は、はい……暖かいです……」
と言ったセイファはリーにしがみついた体勢のままだった。
波動から吹き飛ばされないように必死にリーに
くっついていたらしい。
「……はっ、す、すみません!え、えっと
ち、治療します……っ!」
我に返って真っ赤になったセイファは、そのまま
三人の治療を始めた。
和やかなムードだが、リーは気を抜いていない。
まだ王の手には物体が残っているのだ。
瞬間、治療に向かっていたセイファ目がけ
物体から波動が放たれた。
「――危ない!」
「え……?」
セイファを庇ってリーは物体を見据える。
一行もまだ気の抜ける場面ではないと知って再び緊張した。
物体はそのまま王の手を離れ、浮遊し、そして
いつの間にかに浮かび上がったフードの男の手に収まった。
「……」
男は何も喋らないが、リーには男がひどく不気味に思えた。
そして男は城外の森を一瞥してから一行に背を向けると
そのまま歩きだし、そして溶けるように消えて行った。
一行はそれを驚きと共に見つめていた。
「あの者が品を王に渡した客でございます」
祖父は一行に言った。
リーは不甲斐なかった。いくら高密度な魔力に
阻害されていたとはいえ、隠れていた男に気付かなかった
のである。
いや、それともとリーは思った。
もしかすると隠れていたわけではなく、転移してきたのでは
ないか。
気配を察知出来なかったのはそのせいである。
それでも転移の気配もなかった。
リーはどちらにせよ、不甲斐なく思った。
「先ほどの正体不明の者に関する情報が集まりました。
各地に出没し、様々な手段を使って魔力を強奪した
形跡があります」
イルはリーに向かって言った。
「先ほどの高密度の魔力は以前、観測されたものと
規模は小さくあれ、極めて似ていました」
「……では、あれが今回の大本、というわけですか?」
リーはイルに聞いた。
「…確証はないですが、可能性は極めて高いと思われます」
イルはそう返した。
「各地で強奪した魔力を一か所に集めていれば、それを
気の遠くなるような長い年月をかけて繰り返せば
観測された魔力の大きさにもなりえると推測します」
リーは少し驚いた。
プロテクトサポーターなどで遠回りしているかのように
思っていたのだが、今回は一直線に大本に突き進んで
いたのかもしれないと。
「先ほどの者の反応は消失しましたが、近くの森に
かすかに魔力の揺らぎを発見いたしました。おそらくは
その場所に潜んでいると推測します」
リーは男が消える前に森の方角を見たのを思い出した。
罠かもしれないが、イルの言うとおりそこが
潜伏場所、またはその出入口である可能性が高い。
「分かりました。……心強い情報、本当に
ありがとうございます」
「…いえ」
リーは心から感謝した。
イルの顔が少し赤くなった。
王はしばらく昏睡状態にあるようだった。
セイファが薬を祖父に渡して、ミクリィが
「しばらく王が目覚めるまでは爺が政を行って」
と祖父に頼んだ。
祖父は一瞬ためらったが承諾した。
一行は祖父を城に置き、目的の森の手前で野営した。
疲労の回復と治療、そして強大な敵に立ち向かう前に
一呼吸を入れるためである。
リーも今回ばかりは自分も一緒に休息を
とった方がいいと思った。
野営地に結界を貼った後、リーも床についた。
「……リファインド様……」
そして、横になったリーをイルが呼んだ。
リーにしか聞こえない音量である。
「…なんでしょう?」
リーも声を潜めて聞き返した。
「……彼女達も、次の戦いに連れて行くのですか?」
リーは一瞬返答に困った。
確かに過去の戦闘を振り返ると、三人は成長してはいるが
リーには遠く及ばず、足手まといになることも多かった。
「……確かに、ここに置いて私一人で行くって手も
作品名:AYND-R-第四章 作家名:天月 ちひろ