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天月 ちひろ
天月 ちひろ
novelistID. 51703
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AYND-R-第三章

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「……まさかここまで剣が上達しているとは…驚きましたな」

祖父が言った。祖父の方も息が上がっている。
しかし、ミクリィはそれ以上だった。
何も言い返せない。

それでも祖父はミクリィに向かって剣を振るった。
ミクリィは力を振り絞って対抗した。が、一瞬体勢が乱れた。
そしてそのミクリィの一瞬の隙を、凄まじい剣線が通ったと
思いきや、

「年よりの冷や水で孫を殺めるなんて…世も末ね」

とミルファルが鞭で祖父の剣を止めていた。
ミルファルの鞭は剣を押しても引いても切れなかった。

「……後日、城に来なされ。勝負はそれまで」

と祖父は言うと、壊した壁から逃げていった。
リーには捕まえることは簡単だが、ここで捕まえても
ミクリィと祖父は決して分かり合えないと
直感で判断した。そしてわざと逃がした。

「ミクリィちゃん!!」

言って、セイファがミクリィの治療を始める。
ところどころから出血が見られるが、深いものは
ないようだ。
それよりも、ミクリィの精神的な被害が気になる。

肩で息をしたミクリィは、放心したように
目を地面に向けていた。
そして

「…………なぜ爺が…………」

とつぶやいた。




一行は宿を夜中に後にした。
凄まじい騒ぎだったが、リーは何事もなかったかのゆに
一瞬のうちに家屋を魔法で修理していたので
宿屋の主人は疑問に思った。

もう敵に知られている宿は使えない。
一行は町から離れて野宿することにした。

その間もミクリィは意気消沈している。
他の者も気まずそうに、会話は少なかった。

やがて、真夜中ということもあって
すぐにまた就寝となった。

リーは寝ずの番である。
今まで交代制でやってきたが、今回はメンバーの
消耗が激しく、リー以外の者が出来るとは思えない。
リーは自らその役を買って出た。


リーは夜空に輝く星を見た。
今までにこなして来た任務の中には、夜空に
星がないところもあったが、ここでは多くの星が出ていた。

リーの住んでいる世界にも星は出る。
読書に続いて、星を見るのもリーは好きだった。


リーはイルからの情報で、ミクリィの素性はすでに
知っていた。
だが、事情があると思ったので、あえて
無視することに決めていたのだ。

それがいきなり祖父と父に命を狙われた。
リーは自分の過去を思った。

……と、自分に誰かが近づいてくる気配がした。
気配の主はミクリィだ。

「……ごめん、なんだか眠れなくってさ」

無理矢理笑おうとした顔で、ミクリィがリーの隣に座った。

リーは何てミクリィに言ったらいいか
分からなかった。
こういう時、どんな言葉をかけたらいいのか。

しかし、先にミクリィが口を開いた。

「ごめん、らしくないよね。あたしのせいで皆の空気
 重くしてる」

ミクリィは申し訳なさそうに言った。

「……事情が事情です」

リーにはそう言うのが精いっぱいだった。
そう言って両者沈黙する。

…しばらくして、ミクリィは口を開いた。

「……あたしさ、元はあの町で、あのお城で産まれたんだ」

ミクリィは自分の過去を語り始めた。

「綺麗な服来て、城の中を走り回って……そのたびに
 爺や周りの人を困らせてた。やんちゃだったね。
 …いや、「だった」じゃないか」

そう言って少し苦笑いする。

「でも、もう少し大きくなって、父様が政取るようになって…
 私も形式的なことを学んで…。それが段々つまらなく
 なって、爺に無理言って町に出してもらったの」

ミクリィは星、あるいは過去を見ながら話す。

「それが衝撃でねー…。今まであたしは何を知って
 次のお姫様になろうとしてたんだって思って…。
 それで、本当に無理に無理を言って、爺とその周囲のもの
 だけにしか秘密にして、あたしは旅をすることにしたの」

そう言って、ミクリィはリーを見る。

「それで面白いなーって回ってるうちに、盗賊団に
 捕まって、リー達に出会った、ってわけ」

そしてまたミクリィは星を見る。

「昔っから爺は曲がった事が嫌いでねー。……だから、今
 私達がやってることって……悪いことなのかなって
 思った」

ミクリィは首を振る。

「でもそれは違う。爺もそれが分かってるから、私に剣を
 向けたんだ。…いつもお仕置きは長い長い説教と
 げんこつだったから」

リーは言った。

「……次にあの方と会う時は、命のやり取りかもしれません。
 ……あの方の元へ……行きたいですか……?
 ……あの方を斬りたくなくって、そしてあの方が
 曲がった事が嫌いな方なら、もしかして私達の方が
 間違っていると思って、あの方の方へ移りたいですか?」

ミクリィは少し驚いたが、すぐに言った。

「……もし、移りたいって言ったら、リーはどうするの?」

リーは目を伏せて、

「…あなたがそう言うのなら、私は止めません。しかし
 移った先で斬られないか心配なので、とりあえず
 あなたを送りとどけて見送ります。
 …そして、次に会う時は敵同士です。
 私はそれはいやですが」

「当然、あたしだってそうだよ」

ミクリィは目に涙を浮かび始めている。

「リー達に会って、あたしは楽しい。嬉しい。面白い。
 そりゃあ、あたし達が悪いことしてるんなら
 あたしは爺に斬られたって文句言えない。
 けど、そうじゃない。…リーに剣を教えてもらうのが楽しい。
 セイファと話すのが楽しい。ミルファルと技を競い合うのが
 楽しい。……そんなささいで小さな、だけど大きな喜びを
 爺は壊そうとしてる。…なら」

目に涙の代わりに決意を込めて

「間違ってるのは爺。あたしは爺の敵になる。リー達の味方だ」

とはっきり言った。

「……ね、リーの両親はどんな人なの?」

少し気分が晴れたのか、人懐っこい顔でミクリィが聞いた。

「わ、私ですか?」

リーは戸惑った。
チップからイルが

「ミクリィさん、その話は……」

と制したが

「…いや、いいです、話しましょう。ミクリィさんだけ
 話しておいて、私が話さないのも不公平ですから」

と言った。

そしてリーもまた、自分の過去を語り始めた。





リーはどこにでもありそうな、一般の家庭に産まれた。
それこそセイファや、姫様や領主でないミクリィと
ミルファルと同じように。

だが、一般の家庭でありながら、そこは幸せな家庭ではなかった。
両親の喧嘩声を子守唄には出来ないながらも、そのころから
家庭内は乱れていた。

リーが成長していっても、両親は争ったままだった。
そして、争いはどんどん極まっていった。

家庭の中がそうなので、リーは
外であまり目立つ行動は出来なかった。
リーは外でのどんな屈辱にも耐えるしかなかった。

そしてリーは内外の環境からの心労で、若干14歳にして
体を壊す。
その半月後、両親は別れ、父についていったリーも
父の狂った性格と横暴により、ついに家を追い出される。

心身共に満身創痍のリーは愕然とした。
全てを恨みながらこのまま消えるかと思った。

だが、リーは昔から少しだけ魔法が使えた。
ある日、満身創痍ながらも、食糧確保のために
作品名:AYND-R-第三章 作家名:天月 ちひろ