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天月 ちひろ
天月 ちひろ
novelistID. 51703
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AYND-R-第三章

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とミクリィは言った。

「で、でもここの人達は豊かではないから……し、仕方なく
 ここで働いている可能性もあ、あります……」

セイファの考えはそうらしい。

「でも、用心棒が危険な品を持ってくれば
 大変なことになるわよ」

ミルファルは言った。

「…いや、おそらくそれは大丈夫でしょう」

考えをまとめていたリーの言葉に、三人は注目する。

「そんな危険なものを用心棒に持たせていては、雇い主は
 我が身が常に危険にさらされる可能性をいやでも考えます。
 おそらく、用心棒にはそのような品はないでしょう。
 …それに、あったとしても、私がどのようにも出来ます」

なるほどと三人はうなずく。

「それでは、どうなされますか?」

イルが聞いた。

「……とりあえず、ここの主人を押さえましょう。
 それで、もし抵抗する用心棒などが現れたら、それと
 戦いましょう。私は主人や用心棒が危険な品を出さないか
 注意しておきます。その間に、ミクリィさんと
 ミルファルさんが抵抗勢力を押さえてください。
 …セイファさんは私のそばから離れないでください」

言いながら、いつもとっさのこととはいえ、セイファ達に
触れなければいけない可能性にリーは内心頭を抱えた。

誰かに触るのも、誰かに触られるのもリーは苦手である。
今までは急場だったため仕方がなかったが、それ以外で
触れたことは一切ない。

道中くっつこうとしたミルファルでさえ、結局一回も
リーに触れてはいないのだ。

「は、はい……いつも足手まといですいません……」

セイファが言って少し落ち込む。

「なーに言ってんの。戦闘後の回復ってすっごい重要だって。
 セイファがいてくれてすっごい助かってんだから」

ミクリィが少し落ち込んだセイファを慰める。
ミルファルもいつも治療してくれるセイファに感謝しているのか
大きくうなずいた。

「…では、仕掛けましょう。これより攻撃を開始します」

「分かりました。…リファインド様、皆様、お気をつけて」

イルの少し心配そうな声が聞こえた。



制圧は割とすんなりと終わった。
すぐに激しい抵抗があったが、成長したミクリィと
ミルファルの流れるような舞に、抵抗していた者はことごとく
倒されていった。

懸念されていた薬は大丈夫だった。
商人自体も、屋敷の中で危険な品を使えば自分も危ないと
いうことを分かっていたようで、使うに使えなかった
ようである。

そして牢の中の人達と、商人の大半が入れ替わった。
途中、ミクリィが仕方なくここで働いていた用心棒と
そうでない者を、老人と共に選別した。
仕方なく働いていたものは牢に入れず、屋敷の一員として
働かせた。

最後に、城の者や、市民達には入れ替わったことを
知られないようにとリーは老人に言った。

大々的に入れ替わった事実が分かれば、どんな輩が
何をするか分からない。

城を調べて治安を正すまでは、入れ替わったことは
絶対秘密にするよう言った。
老人達もそれに承諾した。




一行は屋敷を出て、町の宿に戻ってきた。
次の目標は決まった。
城にいるご先代様とか言われていた者だ。
謎の物体についても気になる。

だが、すでに屋敷の戦闘で三人は疲労しており
一旦は宿屋で体制を立て直すことにしたのだ。


食事やお風呂もそこそこに、一行は床に就いた。
ちなみに、全員同じ部屋である。

リーはさすがに三人の少女の部屋に自分がいるわけには
いかないとかなり粘ったが、治安が悪い町であり
それに三人共リーだけ一人、他の部屋にする気が
微塵もなかったのである。

それに、野宿も共に何回もしている。
断る理由が減っていった。

リーは頭を抱えた。




その夜、リーは夢を見た。


その夢の中で、またリーは昔の姿になっており
多くの人型の「何か」に襲われた。
リーは応戦しようと思った。だが、そのころのリーは
無力であり、満身創痍をあっという間に突き抜けた。

リーはこのまま自分がいなくなるのか
それとも苦しみながらいつづけなければならないのか
そう思った。



思って、そこで目が覚めた。
寝ている部屋の扉の前に、なにやら不穏な気配が漂っている。

「リファインド様、扉の前に多数の不審な輩を確認しました。
 注意してください」

「…分かりました」

チップからイルが警告を発した。

音もなく扉に近づくと、リーはそっと魔法を扉にかけた。

瞬間、部屋に大勢の人がなだれ込んできた。
そして次々と倒れた。
リーが扉に雷の網を張っていたのである。
リーは、これが夢の続きではないと認識してほっとした。

「あらあら、レディ達の部屋に男が入ってくるなんて
 なってないわね」

いつから起きていたのか、ミルファルが軽く鞭で
入ってきた人をぴしぴし叩いている。

ミクリィも剣を持って警戒している。
その後ろにセイファがいた。

私も男ですが、とリーが言う前に、ミルファルは
リーは別よ、といわんばかりにリーに向かって
ウインクをした。

確かにこのような容姿だが、もしかして男と見られて
ないのかとリーは思った。

「失礼、城からの御達しである。一同、縛について
 もらう」

と扉の前に鎧を付けた壮年の男性が現れた。
男が扉に入らないのは、入ったらどうなるかを
悟っているのだろう。

「なっ……!?」

ミクリィが驚愕の表情を表にした。
それをみた壮年の男性が、わずかにまゆをひそめ

「……やはりあなたでしたか……姫様」

とミクリィに向かって言った。
一瞬、場が沈黙した。

「ひ、姫様……?」

沈黙をセイファのつぶやきが破った。
セイファは固まったままのミクリィを見ている。

「あら、ミクリィってお姫様だったの?
 まあ、そう見えないしどうでもいいけど」

とミルファルは油断してない表情で壮年の男性をにらんだ。

「……爺……」

ミクリィはつぶやいた。
瞬間、はっとして。

「なぜだ。なぜ爺があたしを狙う!?」

一瞬ミクリィは自分以外の者が狙いだと
思ったが、殺気がそのまま自分に向けられていると
知って、愕然とした。

「配下の者があなた様らしき者を見たといい
 そして……ご先代様の意志、であります」

無感情に、しかし言いにくそうに言った。

ミクリィはさらに愕然とした。

「ばか言わないで!何であたしの父様と祖父である
 あんたが私の命を狙うの!?」

「……問答はいらず」

言って、ミクリィの祖父は宿の壁を吹き飛ばした。

「――リー、セイファをパス!!」

「ミクリィちゃんっ!」

壁が吹き飛ばされて煙が舞うが、リーには誰がどこに
いるかははっきりと分かった。
魔法で一瞬で煙を吹き払うと同時に、セイファをかばうと
祖父と孫が剣を合わせていた。

祖父の剣はその年齢を感じさせず、ずっしりと重みがあった。
対してミクリィは、威力も速度も昔とは比べ物にならないが
どちらかと言うと速度主体の剣である。
しかも相手は鎧を着ている上、ミクリィには
祖父を傷つけたくはなかった。

しかし、祖父は確実に孫の命を狙っている。
ミクリィは次第に追いつめられていった。
作品名:AYND-R-第三章 作家名:天月 ちひろ