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天月 ちひろ
天月 ちひろ
novelistID. 51703
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AYND-R-第三章

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見覚えがありそうな様子だった。

「あっ……あいつは……!」

ふいにミクリィが小さく声を上げた。

一番隅の牢に、初老の男性がいた。
どうやらミクリィには何か覚えがあるらしい。

少し迷った後、ミクリィは言った。

「…あいつは知り合いで、信用出来る。
 ちょっと話を聞いてもいい?」

リーは一瞬考えたが、自分たちが同伴するという
条件付きで、それを承諾した。

開錠の魔法で音もなく扉の鍵を外すと
隠密の術を解いた。

いきなり現れた一行に初老の男性は声を上げそうになったが

「しーっ!お願いしずかにして!」

ミクリィがその口をとっさにふさいだ。
だが、ふさぎすぎて呼吸を止めている。

「ストップミクリィ、この老人を殺める気?」

ミルファルがすっと中に入り、ミクリィの手をどかした。

「ご、ごめん!」

あわてて謝るミクリィ。

「あ、あなたは……!」

息が整ってきた老人がミクリィを見て、大きく目を開いた。
ミクリィは唇に手を当てて、

「久しぶり、ミクリィだ。どうした、なんで
 こんなところにいる?」

と言った。
三人には「ミクリィだ」と言ったところがやけに
強調されたように聞こえた。

老人は意味を察して、

「お久しぶりでございます。お会いしとうございました…」

と言って涙を流した。

「涙は後。それより、聞きたいことがある」

「はい、何でも答えます。…が、なぜひ…いや、ミクリィ様が
 こんなところに?」

不思議そうに老人はミクリィに聞いた。

「ちょっとわけありで。大丈夫、捕まったわけじゃない
 事情があって、ここに忍び込んでるんだ」

「なんと、あなた様が忍びこめるなど……!」

信じられないといった様子で老人はミクリィを見た。
昔のミクリィを知っているのか。
確かにミクリィはこっそり忍び込むとかそういうのが
性に合わなく、苦手だった。

「その話は後、あたし達はここについて調べてる。
 それで、なんで捕まってるんだ?」

ミクリィは老人に聞いた。

「はい。私は元々ここの町の城に仕えておりました。
 それが数か月前、変な客が入ってきて、ご先代様に
 面会しました」

「ご、ご先代様……?お、王様でしょうか……?」

「まあ、そんな感じ」

セイファの問いにミクリィが答える。
老人は語る。

「それからです。ご先代様は変わってしまわれて
 城の重臣達をことごとく牢に入れ、民に圧政を敷き……」

老人は言葉に詰まったが、続けて

「私はその変な客が原因だと思いました。ですが
 その客の姿は城のどこにもなく、ならばとご先代様の動きを
 探っていたところ、何やら怪しげな物を手に持って
 それに何やらつぶやいていました」

と言った。

「…怪しげな物、ですか?」

思わずリーは聞いた。

「はい。てのひらで黒く明滅する物体にございます」

「てのひらで黒く明滅……」

リーはつぶやいたが、心当たりはない。

「なんでそんな怪しい客を面会させたんだ?」

ミクリィが言う。

「はい。私共も追い払おうとしたのですが、いつの間にか
 通してしまっていました。後から考えても、なぜ
 その者を通してしまったのか分からないのです」

老人は言った。
リーは、そっちの話にはピンときた。
おそらく、幻惑の術の類だろう。

「その怪しげな物を見た後、ほどなくして私も
 濡れ衣でこの牢に入れられました」

言って老人は頭を下げた。

「お願いです、わたくしめの事は構いません。
 どうかご先代様を元に戻して民を救ってください」

ミクリィはリーを見た。
リーはうなずいた。
治安を正すのは任務にもつながる。

「…分かった、約束する」

「…ありがとうございます。これで思い残すことはありません…」

「馬鹿言わないで。まだあなたは城に戻って
 政をすることが残ってる」

ミクリィは老人に言った。

「はい。……後、ここを調べているとおっしゃいましたな」

老人はリー達が求めていた情報を言い始めた。

「ここは以前から城で懇意にしている商人の屋敷にございます。
 しかし、今では多数の禁制の品を売りさばいて
 ご先代様や城の者に袖の下を送っているようです」

「つまり、城の権威にもの言わせて禁止の品を
 扱ってるってこと?」

ミルファルの問いに老人は首を振った。

「いいえ、商人は城でさえも知らぬ危険な品を
 世に流しています。城に知れそうになると同時に
 金に物言わせて無理矢理話を抑え込みます。
 城は多額の資金面の都合上、ここを強く捜査できないのです」

「な、なるほどです…………?」

セイファは理解しきれないようだった。
城などない比較的平和な町の娘だけあって、そういう話が
よく分からないらしい。

「どうする?ここの商人の屋敷をつぶしたら
 城とか、政とか、他に影響が出ると思うけど」

ミルファルはリーとミクリィに聞いた。

「それでも、つぶさなきゃ薬で大勢の命が脅かされる。
 第一、そんなことで支えられている政そのものが
 ぼろぼろだ」

ミクリィが言った。

「……そうだ。ならさ、ここの商人に代わって
 あんたがしばらくここを仕切ってよ」

ミクリィが老人に提案した。老人は驚いて。

「わ、わたくしめがですか…?」

と返した。

「うん、そう」

ミクリィは提案した。

「商人としての中枢は残しておいて、後は
 人だけ入れ替えるの」

ミクリィは続けた。

「あんたも昔は商人だったんでしょ。それに、ここには
 城に勤めてた人が大勢いる。……無理じゃないでしょ」

「確かに、わたくしめも昔は商人でしたが…。
 一体、どうやってここを…?」

老人はミクリィに聞いた。
ミクリィは笑って、

「今からここを制圧すればいいんじゃない?」

と言った。
老人は驚いたが、三人にはここの商人を見逃すわけには
いかず、元よりそのつもりだった。

老人は首を振って、だがあきらめたように言った。

「危険でございます…と言ってもお止めになさならないので
 しょうな、あなた様は」

「当然」

ミクリィは言った。

「しかしながら、ここには多数の用心棒がいます。
 それに、商人の手には多数の危険な品があります。
 くれぐれも用心してくださいませ…」

老人は心配した。

「だーいじょうぶ。私にはもの凄い師匠と強い味方が
 いるんだから。それに、あたしも昔より強くなった」

「なんと、では、そこの方々が……」

三人は「対策班」に関わらないように、軽く自己紹介した。
そして老人は、

「わたしくめはわざわざ名乗るほどのない年よりです。
 ですが、どうかミクリィ様のことをよろしくお願い
 します」

と言って土下座をした。
それをあわててセイファが止めた。


一行は、再び隠密の術をかけると牢獄を出て
屋敷へと戻った。

イルの情報からここの主の部屋はすぐに判明したが
ここを全て制圧するのなら、用心棒も全て倒した方がいいか。
それとも頭を押さえれば、彼らは動かないか。
一行は考えた。

「少なくても、ここの用心棒はこの商人に手を貸している。
 その恩賞を得ているとなれば、容赦はいらないんじゃない?」
作品名:AYND-R-第三章 作家名:天月 ちひろ