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天月 ちひろ
天月 ちひろ
novelistID. 51703
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AYND-R-第一章

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リーはその男からこの猛獣の入手方法を聞きだした。

こんな猛獣、どこにも自然にいるものではないし
イルもこの世界にこのような獣はいないと言った。

ならば、この猛獣の入手経路をたどれば、おのずと
大きい事件に遭遇する、と思ったからだ。

震えた男の話によると、流れの行商人から、多額の金で
生物をこのようにする薬を手に入れたという。
命令主の言うことを絶対的に実行し、巨大化するという薬を。

ならばと途中にいた牢の中の少女の素性を聞くと
近くの森の中から強引にさらってきたことが分かった。

そこまで分かれば結構と、首領と思われる男を気絶させた。

「…リーさん!」

突如として洞窟に声が響いた。
心配してセイファがここまで来てしまったのである。

「…どうしてここまで来たんですか。危ないですって」

先ほどから薄々とその気配を察知していたが
あえて無視していた。
しかも二人分。セイファは牢の少女剣士を助け出していた。

「だ、だって……り、リーさんが心配で……っ!」

震えながらセイファは言った。

「私は大丈夫です。昨日、私の力は見たでしょう。
 これからは絶対こういうことをしてはいけません。
 厳しいですが、己の身を守れないものが、こういうところに
 入ったらどうなるか、想像はつくでしょう」

リーはセイファを叱った。
そして叱って、自分で自分が信じられなかった。
今まで他人と接する機会が少なかったリーは
誰かを叱るということと、叱りつつ相手を心配するという
ことがなかったのである。

今までになかった未知の感情に驚く間もなく
次の瞬間、リーのいる場所に剣線が走った。

リーは、先ほどからの攻撃的な視線を十分に察知していて
難なく後ろへかわした。

「み、ミクリィちゃん!な、何をするの…っ?」

セイファが驚く。

「この男はあたしを助けなかった。この男もやつらの
 仲間だろう!」

ミクリィと呼ばれた少女剣士が立て続け剣を振る。
リーのいる場所にいくつもの剣線が走る。
リーは困った。避けるのは簡単だが、誤解を解く方が
難しい。

「み、ミクリィちゃんやめてっ!」

セイファがミクリィの腕に抱きついた。

「あ、危ない、セイファ離れてろっ!」

ミクリィがセイファに剣が向かないようと焦る。

リーは、その剣先がセイファに向かわないように
もし万一の時は魔法でクッションでもはさもうと思いつつ
この娘にはもしかしたら、言っても無駄かもしれない
セリフを言ってみた。

「誤解です。私は昨夜から今朝にかけて、セイファさんと
 共にいましたし、この者たちと一緒に何かを出来る
 ような場所・時間に私はいませんでした」

その言葉を聞いて、ミクリィは目をぱちくりとさせた。
そして剣の先を地面に向けて

「へ、へー……?つまり、あんたとこいつは
 そういう仲…だった、と……?……あ、いやー
 その、勘違いしてごめん!!」

そう言って、ミクリィは思いっきり頭を下げた。

『…は?』

リーとセイファの声が重なった。
勘違いしていたといえばいたが、今現在、勘違いしている
要素が増えた気がする。

「…リファインド様、昨夜はお楽しみでしたか?」

チップから何やら不穏な気配が漂ってきた。
イルは連絡のないリーを心配して、徹夜で頑張ってくれたのだ。
リーにはイルの気持ちが痛いほど分かる気がした。

それでもリーは本当に何もしていないのだ。
リーは正直に、誤解を解くために、チップにも聞かせるように
ミクリィと呼ばれる少女に言った。

「昨日、少し縁あって、一宿の宿を提供して
 もらっただけです。あなたの考えているようなことは
 決してありません」

「へー……?」

ミクリィは半信半疑だった。心なしか目つきが笑っている。
楽しんでいるかのようだった。

リーは勘弁してほしかった。
これまでほとんど隠密を常としているのに
どうしていきなり女性関係を問いただされているのか。
こんな感じで進む任務は今までになかった。

「だけど、ここまでの手練れがこんなところにいるのは
 何でなの?」

ミクリィは少し口調を改めつつ、周りを見渡した。
そこにはリーによって倒された魔獣と男達が倒れている。

男達は気絶しているだけだし、魔獣には縮小と
凶暴さ抑える魔力、そして命令服従解除の魔力をかけておいた。
数分で自然界にいる程度の大きさか、それよりもう少し
小さくなるだろう。

リーはとっさの返答に詰まった。

「それに、さっきの一部始終、聞いちゃったんだよね
 セイファと一緒に」

ミクリィの目つきが真剣なものになっている。

ミクリィが言うさっきの話とは、リーが戦闘を仕掛ける以前の
男の話と、男を問い詰めて聞き出した、薬の話の事だろう。

「…私はただの放浪の身です。今回はちょっとおせっかいが
 過ぎただけです」

リーはとぼけることにした。
「対策班」のことは軽々しく口に出来ない。

「ふーん……?」

ミクリィは怪しげにリーの周りを回りながら
リーをじーっと観察している。
リーはここから逃げ出したくなった。

「それに、ここらへんじゃ見かけない容姿だし…
 さっきの魔法だって初めて見た」

リーは返答に困ったが、セイファが首を振ってミクリィを
制した。

「み、ミクリィちゃん、り、リーさんは少なくても
 悪い人じゃないよ…。…だ、だって、このままリーさんが
 この人達を倒してくれなかったら、わ、私達の村とかが
 大変なことになってたんだから…」

ミクリィはちょっと困ったような表情になった。

「…そりゃあ、あたしだってそれくらい分かってる。
 現にこいつはこの盗賊団を壊滅させたんだ。
 ……遠まわしにあたしも助けられてる」

まあ、直接は助けなかったけどな、と付け加えてから
ミクリィは言った。

「…ま、さっきの獣といい、世の中には不思議なことも
 あるってことで納める方法もあるけどな」

是非そうしてほしいとリーは思った。

「…………おしっ!」

何を思ったか、ミクリィは何かを決めた様子でうなずき
リーをまっすぐに見上げて、そして衝撃的な事を言った。

「お前の旅に、あたしも連れて行ってくれないか?」

「…はあっ?」

思わずリーは問い返した。
ミクリィは少し興奮した様子で言った。

「あたしはこの近くの村に住んでるんだけどさ、剣士として
 世に修行に行きたいって思ってたんだ。そんな矢先こんな
 事件が起こっちゃあじっとしてられないよ!
 お前なら、強そうだし強い事件と遭遇しそうだし」

それに面白そうだしとミクリィは付け加えて笑った。

リーにとっては冗談ではない。
断ろうとした矢先、セイファが口を開いた。
そしてリーにとって信じられないことを言った。

「な、なら私も、い、行きます…っ!ま、町が襲われるかも
 しれないって時に、普通にど、道具屋さんを
 していたんじゃあ、な、何も出来ないです……っ!」

リーは青ざめて頭を抱えた。
断る対象が増えた。

その時、チップから声が聞こえた。

「…リファインド様、そのお二人に協力してもらっては
 いかがでしょうか」

「イルさん!?」
作品名:AYND-R-第一章 作家名:天月 ちひろ