AYND-R-第一章
反射的にリーはチップに向かって声を縮めて叫んだ。
イルも互いにしか聞こえない音量で話している。
「何も珍しい話ではありません。プロテクトサポーターにすれば」
プロテクトサポーターとは、「対策班」での用語で
現地での協力者のことを指す。
その協力者は一時「対策班」のことを知れるが
その後一切「対策班」のことを第三者に話しては
ならず、任務終了後に、任務に関わる記憶を消す場合もある。
それを二人にやらせてみてはどうかとイルは言う。
「…戦力として数えられません」
冷たいようだが、リーはきっぱりとイルに返した。
世界規模の異変が起ころうとしているときに、我が身も
守れないような者は、正直足手まといにしかならない。
「大丈夫です。彼女達を強くすれば、こういう異変にも
自分たちで立ち向かえるようになります。
弱いままではいけません。彼女達を強くすることは
任務達成にもつながることです。その世界で自衛出来て
今回のような大きな脅威が出なくなります」
それに、とイルは続けた。
「彼女達を少々探ってみましたが、性格的に
そして実力的にもさほど問題はありません」
リーは驚いた。性格はともかく、この二人が
実力的、つまり戦力的にも問題はないとイルは言う。
男に囲まれていたセイファと捕まって牢に入れられていた
ミクリィ。
とても戦力になるとは思えない。
「…将来的にですが」
と、イルはそう付け足した。
それを聞いてリーはがっくりとした。
つまり、そうなると、当分は自分が彼女らの面倒を
見なければならないのである。
「ですが、将来的に大きな戦力になりそうな芽を、確かに
持っています。彼女達の力を借りるのも悪くないと思います」
イルはそう言って判断をリーに託した。
リーは判断に迷った。
リーとしては断固として反対だが、イルの言ってることは
正しい上、信憑性もあって任務達成にも関わった。
その上、目の前の二人から期待を込めた目で見られている。
(……私って、今年厄年でしたっけ…?)
リーは今年で18歳であり、厄年ではないがそんな気分になった。
思いながら、自分には断る正当な理由も、言えるだけの
人間関係経験がないことを悟った。
「それでは改めまして、リファインド様のサポートを
務めさせて頂いています「イルメシュ・カウリィ」と
申します。「イル」とお呼びください」
「おー。あたしはミクリィ・ライレ。…でも、これ
やっぱどうなってんの?イルってリーの妖精とか?」
「いえ、サポート役です」
「え、えっと……セイファ・ローラトーと申します…
よ、よろしくお願いします……」
数分後、イルと一緒に二人に「対策班」のことを説明し
二人にはプロテクトサポーターになってもらった。
リーはちょっとだけ泣きたい気分になった。
暗闇の中、誰かがじっと何かを見つめている。
そしてその「誰か」は「それ」に手をかざす。
「それ」は「誰か」の手に応えたように震えた。
「誰か」は何かをつぶやいているように唇を動かした。
作品名:AYND-R-第一章 作家名:天月 ちひろ