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天月 ちひろ
天月 ちひろ
novelistID. 51703
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AYND-R-第一章

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リーはいきなり囲まれていた少女の横に立ち、少女に尋ねた。

「…ちょっと訪ねたいんですが、この先に町ってありますか?」

驚く少女と男たちを差し置いて、リーは言った。

「…は、はい……ありますけど……」

少女は驚きながらも答えてくれた。

その瞬間、悪党によくありそうなセリフを言って
数人の男が殴りかかってきた。

「…サンダークラスト!」

リーはちょっと面倒そうに雷の魔法を使った。
たちまち男たちは痺れと痛みに辺りを転げた。

「…逃げるなら今のうちです。教えてくれて
 ありがとうございました」

少女に礼を言い、リーはそこから立ち去った。
背後に「あ、ま、待ってください…!」と聞こえたが
すでにそこからリーの姿は消え去っていた。



(…やはりここは狙った座標の近くの森のようですね)

確定は出来ないが、確率は高いとリーは思った。

森を抜けた後は普通に人工の道、すなわち街道を使い
速度も普通の人並みにした。
人の往来が増えてきたからである。
自分の服装も目立たないように、それとなく特徴を
魔法で変えてあるが、リーの長髪だけは少し目立っていた。

リーにはこの長髪には少し思い入れがあり、切っていない
理由がある。


ほどなくして町に着き、リーは情報収集を始めた。
町の名前は、地図を見たときに記憶した名前と一致し
リーが現在いる場所を正確に把握した。
民家約30件、道具屋、薬屋、教会など各施設があり
自警団のような治安部隊もある。

ここの自警団はまとまりも良く、イルのいう
「ちゃんと機能している」部類に入る。

住民も特にそれほど深刻に悩んでいる人も
いないように見える。
元々それなりに治安は良さそうだ。

だが、リーの耳に、少し引っかかる会話が聞こえてきた。
近所の主婦同士の会話だろう。要約すると

「北西にある森から、夜な夜な奇妙なうめき声が聞こえる」

といったものだった。
単なる噂話に過ぎなければ越したことはないが
一応調べてみようと思った。

だが「支援」のない今、むやみやたらと動き回るべきではない。
情報収集を続けたので日も落ちてきているし
今日は野宿をしながらチップの修理をしようとリーは思った。

と、その時。

「あ、あの……っ!」

と、後ろから声をかけられた。

声自体は割と早くから聞こえていたが、それが自分に
向けられているとリーは思ってなかった。
害意のない気配だったので特に気にしていなかったのである。

振り向くと、先ほど助けた少女がいた。

「…おや」

リーは思わず声を発した。
この少女、この町出身だったのかと。

「な…なかなか気づいてもらえないので…き、聞こえて
 ないかと思いましたよぅ…」

ちょっと瞳をうるうるさせている。
リーは申し訳ない気持ちになり、

「…すいません、ちょっと考え事をしていたもので…」

と詫びた。

「い、いえ、いいんです。そ、それより…さ、さ、さ」

(…さ?…ああ…)

リーは少女が言わんとしていることを悟った。
おそらく「先ほどはありがとうございました」だ。

「…気にしないでください。私が聞きたいことがあった
 だけですから」

リーは少女にそう返した。
少女は少し驚いたものの

「い、いいえっ、そ、そういうわけにはっ。
 な、なんのお礼もせずに申し訳ありません…!」

と言った。

「そ、それで、もしかしたら旅の方…ですか…?」

そして少女はリーに訪ねた。
リーはどう答えようか一瞬迷ったが「…ええ、そうです」と
答えた。

「え、えっと、今夜泊まる宿って
 もう決まっちゃってますか…?」

「…いいえ、宿には泊まらず、野宿しようかと」

思い切ってリーは言った。
りーにはこの後の展開が大体予想出来たが、今日ここの宿に
泊まる気はなく、嘘をついても町のことをよく知っている
彼女にはばれる可能性が大きかった。

別に彼女に嘘をついてもリーには関係ないはずだが
嘘をつきなれるほど、リーにはとっさの人間関係経験はない。

「の…野宿ですか…!?」

案の定、彼女は驚いた。

「…ええ、平気です、放浪の身ですから」

リーはなんでもない風に言った。
実際、なんでもない。誰かの家に泊まるよりは。

「な、なら……っ!」

何となく切実な表情で少女は言った。

「わ、私の家に、その、き、来ませんか…?
 た、助けてくださったお礼にせめて、い、一宿一飯
 だけでも…っ」

少女は顔を真っ赤にさせながら頭を下げた。
ここまではリーの予感が全部当たっている。

しかし、一瞬のうちにリーは冷静な思考と視線で
相手を探った。
もし相手に悪意がある場合、相手のホームポジジョンでは
リーはどのようにも料理出来る。
…リーはその場合でも楽に突破出来るが。

リーが魔力も多少使って探ったところ、少女は
嘘をついているわけではないし、演技でもないようだ。

そして、そのことが余計リーを悩ませた。

悪意のある相手なら、わざとかかったふりをして
大物を引き出す。そして一気に仕留める。

悪意のない相手なら、そのまま承諾するか
断るかだけだ。
リーの心はほぼ大半が断りたかった。
見知らぬ人の家に泊まるなど極力避けたい。

だが、町に詳しい住民から情報を引き出せる可能性もある。

リーはこの二択に非常に迷った。
迷った末、

「…分かりました。そこまでおっしゃってくださるなら
 お邪魔してもいいですか…?」

と言った。
任務には変えられない。それに、事件の解決に時間がかかれば
時間がかかるほど、リーは人々の中で情報収集をしなくては
ならなくなる。
リーにとっては断腸の思いだった。

「あ、ありがとうございます…!」

「…いえ、お礼を言うのはこっちの方です」

そのまま互いの礼の応酬が始まった。




少女の名前はセイファ・ローラトーと名乗った。
長くてサラサラな茶髪を腰まで伸ばし、赤茶色の瞳をしている。
村娘の服装に専用のエプロンをつけていて、道具屋を
やっているという。
セイファは道具屋の娘であった。
というか一人で道具屋をやっていた。つまり一人暮らしである。

リーは内心で青ざめた。
一人暮らしの女性の家に男性を上げるのは良くないことと
普通にリーは思っている。
そして気づいた。もしかしてこの少女は自分を
女と思っているのではないかと。

リーは確かめてみた。
だが、少女はリーをちゃんと男と認識していた。

最初は間違えそうになったが、雰囲気と声で分かったという。
リーの声は別段、そこまで高いわけではないが、男性にしては
高い方である。
セイファはよく道具屋に来る客から、男女の違いを更に
分かるようになったのではないかと言った。

リーは心の中で、セイファは一見、気が弱そうに見えるが
自分よりも人間関係は数枚上手な気がする、と思った。

セイファの家は小さいながらも可愛らしい道具屋だった。

セイファの話によると、最近妙に傷薬とか回復薬の
売れ行きがいいらしい。
買っているのは町の自警団と、リーのような
旅の者が主だという。

それだけなら納得する普通の話、普通に需要の結果と思ったが
何かがリーの中で引っかかった。
作品名:AYND-R-第一章 作家名:天月 ちひろ