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メドレーガールズ

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  青天の霹靂


 浦風中学校水泳部の副キャプテン、市田 望は種目別では背泳のリーダーで、部内では「浦中水泳部の頭脳」と呼ばれる程の頭脳明晰、冷静沈着な女の子で、三年生の間ではのんたんと呼ばれている。キャプテンの律子のように力強くリーダーシップを取るタイプではなく、フォームやペース配分、タイムなどのデータを詳細に把握して無駄なく、効率よく練習するのが得意だ。それは望個人だけでなく、水泳部15人の平均タイムなどすべて頭に入っている。数字にはめっぽう強く頭の回転は飛び抜けて速い。試験が近づくと帆那始めみんなが望を頼りにする始末だ。
 見た目はどう見ても文化系であるが、水着に着替え、眼鏡を外し、長い髪をキャップに押し込むとその姿は一変する。律子や真由ほど経歴は長くないが、効率の良い訓練とその理解の速さで、名実共に背泳のリーダーとなった。
 マネージャー的な一面が強く現実的である彼女は、出来る出来ないの判断がハッキリしすぎて周囲を驚かせることがあるが、強力なリーダーを支える副キャプテンという、彼女の適役であることは間違いないようだ。


 勉強熱心な望は、学校から帰ってくると部活の疲れも見せずに自転車で塾へ、9時を過ぎて家に帰ると、普段見ない大きな革靴があるのを見て、元気よく「ただいま」と声を上げてリビングに入った。
「お父さん、今日は早かったね」
「ああ、お帰り、お疲れさん」
 久し振りに早く帰ってきた父は食事をしながら、五年生の弟である睦(むつみ)の一方的な近況報告をニコニコしながら聞いていた。
「今日はうまく仕事がはかどってね」
 望の父はエンジニアで、自動車の開発をしている、出勤は朝早く帰宅は夜遅い、時には研究に没頭するあまり職場に泊まることもしばしばあるため、一緒に住んでいながら父に会う事があまりない。今日は望が起きている時間に帰って来ているのを知って、お父さん子の望は嬉しくなって帰ってくるなりリビングに駆け寄った。
「望、学校、楽しいか?」
「うん」望は父の向かいに座るとタイミングよく母が食事を持ってきてくれた。
「今日ね、プール開きだったの」
「まだ寒いのに、そりゃキツかったろう」
「ううん、よそと比べたら遅いくらい。一番取るために泣き言は言わないよ。今年こそはリレーに出るんだから」
 望はあまり期待はしてないが、大会の日程や場所を父に教えた。
「じゃあ、望のピークをそこに持っていくといい。途中モチベーション落ちる時に早く切り替えることだ」
 父は家族とコミュニケーションを取る機会は少ないが、子供たちにはしっかりとエンジニアらしい、憶測のないアドバイスをするし、言った事はちゃんとメモを取る。望も弟もこの性格はしっかり引き継がれている。
 小学校時代、父の仕事の関係で引っ越しと転校を繰り返したため長く付き合える友達に恵まれなかったが、その分家族の結び付きは強い。友達は家族が鬱陶しく思う時があると言うが、その経験があるためか望には不思議とそんな感情はない。三年前、念願のマイホームを建てて以来ここに定住し、朋友といえる仲間にも恵まれた望は今をエンジョイしている。

 母が父に食後のコーヒーを持ってきて、家族四人が一つのテーブルに座った。市田家は子供たちも成長し、部活や塾で忙しくなり、父も仕事で滅多なことで全員がこうして揃うことがない。そして望は自身の経験から、いつも求めているはずのの家族団らんであるのに、このシーンだけは良くは思っていなかった――。
「ちょっと先の話なんだが……」
 まだ湯気の出ているコーヒーをすすりながら父が話し出した。一度横に座った母の顔を見て、カップをソーサーに置いた。

作品名:メドレーガールズ 作家名:八馬八朔