メドレーガールズ
「律っちゃん!」
「真由、やったじゃん!」
二人は抱き合ってお互いの健闘を讃えた。一つの結果を出した真由であるが、本当に喜ぶのをお預けしているのは様子でわかる。
「さっき華枝とすれ違ったけど何か話してたの?」
「うん」律子は半分残った弁当箱を閉じた「簡単に言えば『いい勝負をしましょう』って言っただけだよ」
真由は何も言わずに律子の顔を見る。
「私に隠し事なんか、ないよ、正直な気持ちを正直に言っただけだよ」
律子は真由の様子に気づいてそう答えた。
「律っちゃん男前だなぁ」
「何が?なんマズイ事言っちゃった?」
さっきから真由の言いたい事が真由にはわからず、律子は表裏のない笑顔を見せた。
「あれは探りを入れていたんだよ」
「えへっ?そうだったの」
「でも、あの様子じゃ結構キタみたいよ」真由は律子のシニヨンを撫でた。「普段見せないけど、顔が明らかに動揺してたもの」
「へぇ、私は全然気付かなったなぁ、何でだろう?」
「私たちはもう『カメ』なんかもよ」
「あはは、そうかもね」
各選手の記録を確認しにこの場を離れていた望も、笑い声に誘われたように戻ってきた。
「さあ、帆那も戻って来るよ、準備しなきゃ」
競技を終えた帆那が戻ってくる。予選の結果が良かっただけに意気消沈しているだろうから、何か励ましてあげようと小さな円陣を作って考え出した――。
~ ~ ~
自分のベストは尽くした。でも結果は4位と奮わなかった。悔しいことには代わりないけれど、私にはあともう一つ、それも一番の大仕事が残っている。観客席に戻る途中、みんなとどう接したらいいか考えた。みんな私を気遣って励ましてくるに違いない。
「それじゃあ今までと同じだよ。それでいいのか、帆那!」私は自分で自分を叱りつけた。
私は次の大一番に向けてここが自分のできる大事な時だと思うと、おのずと自分のすべきことが見えて来た。
「おーい!」
私は浦風中学校の観客席で向き合って何やら話している三人に向かって大きな声で呼び掛けるとみんなこっちを向いた。そういえば開会式が終わってから四人が揃うのは初めてだった。
「みんな、おめでとう」何かを言われる前に、私の方から先に精一杯の笑顔を作って叫んだ。
私は決してひがんだり落ち込んだりしない。だから私に慰めの言葉を掛けたりしないで。むしろここで入賞しなかったことをチャンスとしてやろうとさえ考えていた――。
「帆那……」
「言いたい事は後で聞くよ。次(リレー)で一番獲れば、いいんだ。行こう、みんな!」
私は気持ちを切り替えて最後の大舞台に備えることにした。個人戦で味わった少しの悔しさも次への力に変えてやる、そんな気持ちで仲間の背中を押して控え室に歩き出した――。