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メドレーガールズ

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 個人戦を終えたキャプテンの律子は、浦風中学校が陣取っている観客席で遅れた昼食をとっていた。真由は競技を終えた直後、次は帆那の出番、望はデータ収集で三年生は律子が一人だ。後輩たちも記録の補助などで観覧席はちらほら空きが見られる。あとはメドレーリレーを残すのみ。個人戦では満足はしていないもののまずまずの成績を残し、調子も上向きだ。たった今、バタフライでの真由の朗報を聞いてテンションが上がり、次に行われる平泳ぎの決勝戦を見ていた。
「律っちゃん」
 後ろから律子を呼ぶ声がした。
「あらぁ、久し振りじゃん」
 声をかけたのは北原中のエースでかつてのチームメイト、村崎華枝だった。たくさんの人がいる会場でも、頭のシニヨンで律子がわかる。
 律子が指で「横の席空いてるよ」と合図すると華枝は静かに席についた。
「すごいね、私、全然追い付けなかった」
 律子は悔しさを表に出すことなく素直に勝者を讃えた「真由から聞いたけど、やっぱ練習って厳しいんでしょ?」
「ええ、こんだけ練習してるんだから誰にも負けらんないよ」
 口には出さないが、小学生の時一度も律子に勝ったことがない華枝はどこか得意気だった。口調の節々に自信が見え隠れしている。
「あとはメドレーリレーだけだね?」
「そうだね」
 二人は並んでプールに目を遣ると、プールの方から電子音が鳴った。今まで止まっていた歓声が聞こえ始めた、平泳ぎの決勝戦を告げる合図だ。
「浦中の平泳ぎ(ブレスト)は誰が出るの?」
「今泳いでるよ、あそこ……」
 律子は帆那の泳ぐ6レーンを指差した。残念ながら隣で泳いでいる北原中の林 菜々子に体一つ分のリードを許している。 
「あの子は二年生?」
「ううん、帆那っていう私の幼馴染み」
 決勝戦の選手の中では一回り体の小さい帆那を見て言うと華枝の声が上擦った。チームメイトと対抗馬を較べて見て何かを得たのだろう。
「リレーは私たちが一番、獲るよ」
律子が小さく話しかけたと同時に菜々子に続いて帆那もターンした。僅かながら差が縮まっている。
「えらい自信だね?」
華枝はプールに目を向けた。そしてそう聞き返して律子を見ると、その強い眼光に一瞬我を奪われた。
「ええ」律子は頷いた「やらなきゃ結果は、わからないわ。ただ言えるのは一番になるために練習はしてきたってことよ。自分だけでなく、四人一組として」
 周囲から歓声が沸き起こった。帆那の後半の追い上げを支援するそれだ。ここは浦風中学校の応援席だと言わんばかりだ。しかし菜々子の優位は変わらず、そのまま一着でゴールした。
「菜々子も次は本気モードになるよ」
 律子に華枝の言葉は耳に入っていなかった。僅かに遅れた2位から三人はほとんど差がない。律子は祈るように判定を待っていたが、帆那が4着である結果に下唇を噛みながら見つめていた。
「リレーはアンカーが一番に帰ってくれば、いいんだ」
 律子は屈託のない眼を大きく開いてハッキリと言った。華枝は何か言おうとしたが、その顔を見ると何も言えなかった。

「律っちゃーん!」
 一瞬固まりかけた空気の中、階段の下の方から先程のバタフライで見事な泳ぎをした真由が喜びを隠しながらこちらに向けて観客席の下から上って来るのが見えると、華枝は席から立ち上がった。
「じゃあね、律っちゃん。次も勝たせてもらうよ」
「望むところよ、こっちも勝負だ」
 二人は種類の違う笑顔を見せて、互いの拳を合わせると、華枝はすれ違う真由の肩をポンと叩いて通り過ぎて行った。

作品名:メドレーガールズ 作家名:八馬八朔