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メドレーガールズ

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  水嶋先生の思い



 大会本番が近づくにつれ個人練習だけでなく、リレーでの交代のタイミングをつかむなどの合同練習に時間を割く機会が増えてきた。去年は別のレーンから先輩が練習しているのを見ていただけだったが、今年は私が「こちら側」に来ることができた。練習の過程的には最終段階と言える。私たちの厳しい試練はいよいよ大詰めだ。
 メドレーリレーは、背泳、平泳ぎ、バタフライ、自由形の順でリレーする。浦中のメンバーで言うと、のんたん、私、真由、律っちゃんの順だ。私はのんたんの手が壁に着いたと同時に足が離れればいい。足が台に着いていれば動作をするのはOKだ。そしてゴールする直前のストロークを真由にサインして、真由は私の両手が着く直前にモーションに入る――。この微妙な時間にも気を使い何度も何度も、それが当たり前になるまで練習した。
 この合同練習を繰り返すうちにお互いの呼吸がわかるようになり、徐々に一つの方向へ進んでいくのが実感出来るようになってきた。近づく本番、焦る気持ち、高鳴る鼓動、さらには迫り来る少しの恐怖感さえも私たちには心地よく感じた。

 一時の不調を乗り越えた私は、辛くても努めて笑うようにした。笑っていると他のみんなも笑ってくれる。練習が厳しいことには変わりないが、残り少ない時間を大切に思うことで、チームの雰囲気も次第に一つになっていき、私自身も不思議と負い目を感じなくなっていた。
 厳しい練習に笑顔が見えるのは少しおかしいとは言いながらも、それぞれのタイムも確実に上がって来ているのを見て、水嶋先生も目を丸くしていた。
 気持ちってのは本当に不思議なものだ。私たちは、本当に一つになることができたら誰が相手でも一番になれる――、そう考えられるようになるのだから。

   ~ ~ ~

 代々浦風中学校では試合の前日はプールに入らず、軽い基礎トレ程度で済ませる。というのも明日は会場の準備や清掃、開会式の予行練習などがあって練習にならないからだ。水嶋先生も運営の仕事で忙しく、生徒を見ている時間はないようだ。かつては国体にも出たことのある選手でも学校の先生としてはまだまだ若手で、やるべき事がいっぱいあるのよと私達に愚痴をこぼすことがしばしばある。
 今日は部員15名が揃って今回の舞台である市内のプールに来た。学校のプールと違って会場は50メートルだ。屋根つきなので雨で延びる事もない。日頃見慣れないので50メートル先がものすごく遠くに見える。会場の記録係や誘導等は各中学校から部員を出して交代で行う。主に二年生の仕事で、私も去年個人戦で出場している時を除いて記録係を務めた。今年は人数が足りているとのことで、私たち三年生は免除となった。これで試合に集中ができる。

作品名:メドレーガールズ 作家名:八馬八朔