メドレーガールズ
勝ったら、辞める
浦風中学校女子水泳部キャプテンの律子が水泳を始めたのは、目標になる兄がいたからで、小学生の頃まではずっと兄の背中を追いかけていた。それが、だ。兄は中学卒業と同時にあっさり水泳を辞めてしまったのだ。実力とは別に人数不足などの、クラブの有り体で満足な最後を飾れなかった兄の幕切れを見た。当時小学生だった妹の目には、兄は失意の末に辞めたものと思っていた。
小さい頃から負けず嫌いな律子は一度は目標を失い、中学では違うクラブに入ろうと思っていたのだが、それでは水泳そのものから逃げるような気になって、それに加えて兄の無念や顧問の水嶋先生の推しもあって結局水泳を続けることにした。
律子は入部したときから決めていた事があった。それは誰にも言っていない、自分だけの決めごとだ。
大会で勝てば水泳を辞める
律子の腹は決まっていた。チーム全員で勝利を実感するたに最高の仲間を作ってきた。浦中の精神的支柱である律子は、勝てる保証はどこにもないが、このメンバーなら十分勝負出来る、持って良いのは自信で悪いのは慢心であると考えるまでの境地に至った。
自分の性格は自分がいちばんよく知っている。今でも水泳を続けているのは、勝つ事の喜びを知らないからだ。負けず嫌いだから、勝って満足して、水泳が好きなまま卒業したいと思っているのだ。
律子もまた、真由と同じように自分に付加をかけてそこに向かって突っ走っていた。その前に、確認したいことを確認した上で試合に望みたかった――。