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メドレーガールズ

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 15分後、私の出番が来た。公平に行われるトライアル、競技が終わるまでは誰の肩も持たないのが暗黙のルール、私は静かに4コースに一礼をして台に立ち大きく深呼吸し、ゴーグルを付けた。
 平泳ぎの候補も四人、絶対に負けられない。これを終わりにするのでなく始まりにしたい、いや、始まりにするんだ。
「用意……」
 私は全神経を耳に集中させた――。

 ビッ!

 申し分ないタイミングで飛び込んだ。5コースの真美ちゃんが遅れるのが目に入った。

「私ね、スタートしたら他の事は考えないの」

 その瞬間、のんたんの言葉が脳裏を走った。私の目標は一着で帰ることだ。この時不思議に横の事が全く気にならなかった。

「ターン直後の一かきは慌てない」

 最初のターン。今度は真由の言葉が浮かび上がった。普段は焦ってここで慌ててしまうところを大きく伸びをしてスルスルと体が前に進むのを感じる。

「ストロークの回数にこだわれ!」

 次は廉太郎君の言葉だ。ペースが乱れれば後半大きく影響する、ブレはとくにストロークが大切だ。多すぎずに伸びを大事にする。それだけで後半の持ちが全く変わる。
 私は無意識にその回数を数えた。予定通りの回数で最後のターンが来た。ここまで順調だ、まるで自分の力で泳いでいるのではないくらい。

「最後は気持ち。勝つと思えば必ず勝てる」

 最後のターンをした時、律っちゃんが私に声を掛けているような気がした。今まで練習に付いてくのがやっとで、ベランダで愚痴を溢した風景が目に浮かんだ。その度に私を励ましてくれた事が自分に大きな力を与えてくれたような気がした。

「どうしても一着でゴールしたい」

 自分だけでなく、今までどうしようもない私を助けてくれたみんなのためにも私は勝ちたい。日頃半信半疑で言っている言葉の本当の意味が分かったような気がした――。
 残り5メートル、私は最後の力を両手先に込めて、壁にタッチした。結果は聞かなかった、三年生の表情と横のレーンにいる真美ちゃんのあまりに対照的な顔で分かったからだ。喜びたかったけどそれも複雑で、それ以上に私はこの100メートルという長くない距離に、何も考えられない程力を使いすぎて、次に泳ぐ律っちゃんに手を取られるまで完全に停止していた――。

作品名:メドレーガールズ 作家名:八馬八朔