メドレーガールズ
更衣室の前で私達は真由が出てくるのを待っていると、程なくして出てきた。連絡なしに来たからか、どこか浮かない表情だった。
「まーゆー!」
私とのんたんは学校で接するのと同じ様に声を揃えて真由を呼ぶが、今一つ反応がおかしい。
「急に訪ねていけなかった?」
「ううん」真由は首を横に振るけど、あまり嬉しくなさそうだ「見てたらわかるだろうけど、これが現状よ」
真由の言いたい事はすぐに分かった。プライドの高い真由は、チームでは一歩遅れを取っていることを知られたくなかったのだろう。
「そんなの関係ないよ」
「そうそう、真由は真由だよ」
学校にいるように、三人でじゃれあっていると、のんたんが目を付けた四人が私達をチラッと見て含み笑いをして前を通りすぎて行った。私はそれに対し言い様のない何かが沸き上がったが、そばにいた二人がそれを無言で止めてくれた。明らかに私達とは雰囲気が違う、真由もここではその中にいるのかと思うと何だか複雑な感じがした。
「それよりさ、あの子たちはみんな同じ中学なの?」
のんたんが真由に質問する。彼女が興味をもったものにはところ構わず聞くのはいつものことだ。
「ううん、違うよ」四人の姿が見えなくなると真由はさっきの緊張が解けたかのように学校での顔に戻った。時にはのんたんの単刀直入が良い方向に転ぶ時がある。
「フリーの華枝とブレの菜々子が北中で、バックのリサとバタの梢が聖橋だけど」
のんたんはそれを聞いて表情が明るくなった。
「よかったぁ」
「よかったぁ?」
私と真由は揃ってのんたんの言葉を思わず繰り返した。
「4対0なら当然、3対1でも厳しいのに丁度半分だよ、これはラッキーだ」
のんたんの分析では、三年生の四人のうち三人以上が一つのチームで組まれたらアウトだ。これが上手く2対2で分かれたからラッキーだというのだ。
「厳しいのは変わりないけど、それなら勝負できるよ」のんたんはいつものかわいい笑顔を見せた「スッキリするには勝てばいいんだ、真由も、帆那も」
さっき感じた上から目線は私だけでなく、真由にも向けられていたことが初めてわかった。リレーは競泳における唯一のチーム競技だ。チームで繋がることがいかに大切かというのは転校の多いのんたんだからよく知っているのよと言わんばかりの顔だった。
「まだ2ヶ月もあるんだよ。最後になるかも知れないんだから、出来ることのすべてをやろうよ」
「最後ってどういうこと?」
「いや、そのぅ。負けたら終わりってことよ」
聡明な彼女の頭の中では理路整然としているのだろうけど、私達はのんたんが言った言葉の意味がわからなかった。これもいつものことなので、この時もそうだった――。