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メドレーガールズ

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 放課後私達は真っ直ぐ家に帰り、さっさと宿題を済ませて、のんたんが来るのを待った。予報ではまだ雨は来ないようなので、自転車で行くことになった。私はジーンズにシャツ、のんたんはいつものように文化系な服装でやって来た。律っちゃんも誘ったけど、生憎用事があるみたいで結局二人で行くことになった。
 浦北水泳倶楽部は快速電車が停車する北町駅のすぐそばで、私の住む社宅周辺と比べて賑やかだ。さすがは全国を目指す選手を育成するだけあって、設備もしっかりしていて観覧席にも人がたくさんいる。私とのんたんはそこからプールを見下ろすと、見慣れた真由の姿はすぐに見つかった。浦中のエースは学校よりも速いペースでレーンを往復しているのを見て緊張感が出てきて、手が汗ばむのを感じた。
「そういやのんたんはクラブチームとか入ってたの?」
 横を見ると、のんたんは自然な様子でプールを見ていた。真由と律っちゃんの水泳歴は知っているが、のんたんのそれは詳しく聞いた事がなかった。
「小学校の時はね。でも転校ばっかりしてたからどこも長続きしてないんだ……」
「ふーん」
 のんたんは一瞬暗い表情になった。そういえばお父さんが転勤族で長く付き合える友達がいなくて、私と律っちゃんを見て羨ましいと言った事を思い出した。私は思わず「ごめんね」って言ったけどのんたんは気にしない様子で笑っていた。

 黙々と泳ぐスイマーたち。真由も真美ちゃんの姿もちゃんとある。そしてこの中に私達が越えなければならないライバルがいる。練習の密度、姿勢、どれをとっても私の目にはそのどれもが自分の取り組みより強力なものに見えて仕方がなかった。
 私は来週「対決」することになる真美ちゃんの泳ぎを、のんたんは中学生と思われる女子の泳ぎを全体的に観察し、丁寧にデータをインプットしていた。
 真美ちゃんは四泳法を満遍なく練習していたので少し期待外れなところもあったが、それでも私にとっての脅威であることには変わりなかった。
「どう?」
「うーん、やっぱりみんなすごいね。この中の四人全員でリレーに出たら多分無理かも……」
 のんたんは感情や期待値を抜きに話す。それはいつもの事で今回は特に厳しく聞こえた。確かに全体のレベルが高い、この中では「浦中のエース」も目立たない程だ。
 真由がたまたまこっちを向いたので、二人で大きくゼスチャーすると真由は驚いた表情でこっちを見ていた。
「終わったら一緒に帰ろうよ」
と身振り手振りで合図すると、いつもなら笑う筈なのに真由は素っ気なく返事をした。私達はそれを見て、学校と違って気を抜けない雰囲気なんだというのは肌で感じた。

作品名:メドレーガールズ 作家名:八馬八朔