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命の30分間疾走

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「02―xxx―xxxxだな?分かった。お前らメモあるか?今の番号書き写せ!」
しかし、子分たちはメモや筆記用具など持ち合わせていなかった。
「くそしょうがねー覚えるか」
ガキ大将は暗記が苦手だったので不安になった。
「俺は今すぐおじさんの家へ自転車で走る。お前も境町方面へ全力で走るんだ!」
正太は叫んだ
「分かった。」
正太は自転車を起こして、境町駅のホームへ向かい始めた。
芳川君は正太に向かって叫んだ。
「頑張って!絶対助かるから!」

ガキ大将は子分の中で一番勉強のできる田中と一緒に大急ぎでおじさんの自宅へ向かい始めた。距離的には2~3kmだから5分もあれば着く筈だった。ガキ大将は田中に
「番号を覚えてろ、絶対忘れるんじゃないぞ。」
「分かりました、大沢さん」
そういいながら必死にペダルをこいだ。
そうは言ってもガキ大将もペダルをこぎながら02―xxx―xxxxと頭の中で繰り返した。忘れないように必死に。
  正太は怖かった。だが芳川君を心配させないように平気を装って必死に堺町駅方面に向かった。田舎は駅と駅の距離が長く、一駅区間は30㎞ほどはあった。宮下坂は境町駅と反対方面の堤下駅のちょうど中間地点くらいだった。だから境町駅までもちょうど15kmくらいはあった。自転車でこいでも30分ほどはかかる。30分間必死の全力疾走だった。春なのに線路には熱気がこもっていて走ると汗が出てきた。途中暗闇のトンネルなどは蒸し暑かった。暗い雰囲気だったが怖がらずにただただ必死にこいだ。他の子分たちと芳川君は天に祈った。

  5分が立った頃ガキ大将と子分の田中はおじさんの自宅に着いた。
おじさんは決死の表情のガキ大将に向かって
「おい大輔どうしたんだ、そんなに慌てて」
「おじき、いますぐ電話を貸してくれ!」
「ああいいが・・・何か急用なのか?」
とおじさんが話してるまもなく
電話のところへ走りついた。
ガキ大将は田中に向かって
「番号は02―xxx―xxxxで合ってるよな?」
「はい、そうです合ってます。大沢さん」
そういって正太の自宅へ電話をかけた。
電話はすぐに繋がった。
「はい川上ですが・・・」
幸い自宅にお父さんがいた。
「あの川上さんのご自宅でしょうか?私正太君の同級生の大沢といいます。あの、すぐに正太君についてお話しなければならないことがあります。」
「何ですか?何か正太にあったんですか?」
「はい、正太君が宮下坂の断崖絶壁から落ちて登れなくなったんです。」
「何だって?なんでそんなことになったんですか。」
父親の形相は険しくなり話し方も焦燥感に満ちていた。
「事情は後で詳しく話しますが、とにかく事故で転落してしまったんです。上は断崖絶壁になっていて登れません。とにかく正太君は今境町駅に線路沿いに走って向かっています。すみませんが、境町駅に向かって電車を止めてもらうように車掌さんに話してもらえませんか?」
父親は厳しい言い方で
「分かった、事情は後でゆっくり話してもらう。しかしそれにしてもそんなところに正太を連れまわしてどういうつもりだ?あそこは自殺の名所で有名なんだぞ。一度落ちたらねずみ返しになっていて助からない。」
「本当にすみませんでした!」
ガキ大将は誠心誠意謝った。
しかし、謝っている途中で電話は切られてしまった。
「大沢さん・・・話は通じましたか?」
「ああ大丈夫だ」
少し考えた後、大沢は田中に向かって
「よし俺たちも境町駅へ自転車で向かうんだ。」

  川上家では父勝則が母多恵に向かって事情を話した。お母さんはその話を聞いて気が転倒しそうになってしまった。
「とにかく今はもう時間がないんだ。正太は境町駅に向かっているそうだ。我々も行こう。宮下坂から境町駅まで15kmはある。30分はかかる。それまでに電車が通らなければいいが・・・とにかく正太が境町駅にたどり着くまで電車を止めて貰うんだ」
父勝則と母多恵は大急ぎで駅へ向かうことにした。自宅から駅までは自転車で大体10分くらいはかかる。急いで家を出た。


  その頃正太は薄暗いトンネルを抜けてかなりの距離を自転車で走っていた。ただただ必死にこいでいた。いつ電車が来るか分からない恐怖と闘いながら・・・電車が来ないように祈っていた。

  正太の父と母は大急ぎで駅に辿りついた。まず、車掌さんを探した。小さな駅なので探すのには全く苦労はしなかった。
「あの、ご迷惑を承知でお願いがあるのですが・・・」
車掌さんはにっこりと笑って
「何でしょうか?」
と答えた。
「実は私たちの息子が宮下坂の崖から不慮の事故で落ちてしまいまして、線路の上を今こちらに向かって走っているんです。」
「そいつは大変だ!。あそこは舗装されてない土砂で囲まれていてその先も山で囲まれてますから一度落ちると大変なんです。しかしなぜそんな危険なところに」
車掌さんもびっくりしたようだった。
「ええ、私もおかしな話だとは思うのですが・・・自殺の名所にもなっているとか。まさか自殺するためでもあるまいし。あの・・・途中から線路の外に抜け出す方法はないのですか?」
父はそう聞いた。
「いえ、あの辺りは一体土砂と山の絶壁になってますからこちらのホーム付近になるまではおそらく抜け出せないと思います。」
父は、いくら田舎とはいえそんな危険な構造になっている線路の横の土砂と行政の建築のずさんさに心底腹が立った。
父は本題に入ることを忘れていた。
「あの今電車はどちらからどちらに向かっているのでしょうか?」
「先ほど前の駅を出発したと聞きましたからおそらくあと10分ほどでこちらの駅に電車が来るかと思います。」
「あの・・・電車をいますぐ一時的に止めることは可能なのですか?」
「そうしたいのはやまやまなんですが・・・この田舎駅ですからホームに到着したとき以外に運転手と通信手段を取る方法がないんです・・・本当に申し訳ありませんが。それに・・・」
車掌は続けて話をしようとしたが、父は遮って
「ではこの駅に停まった時にときに電車の運行を休止するようにお願いできませんか?」
「それが・・・」
父の中で不安がよぎった。
「そうしたいのですが、今走ってこちらに向かっている電車は各駅ではないのでこちらには止まらないのです・・・」
この当時は田舎の電車の設備や通信機器の在り様は非常にお粗末なものだった。
父は焦った。
「何とかならないんですか?」
何度もそう聞いた。
「はい・・・残念ですが・・・早く息子さんがこちらに到着してくれることを願いたいのですが・・・」
父と母は心配そうにホームから線路の向こうを眺めた。早く。頼むから早く来てくれ。
そう願った。


  その頃ガキ大将と田中は必死に境町駅まで向かっていた。
「俺たちがたどり着く方が後やから正太には何もできないけど、何かせずにはいられないからな・・・」
「はい、大沢さん」
そういって二人とも一心腐乱にペダルを漕いだ。

長谷川を除く子分たちと芳川君も堺町駅へ自転車で向かっていた。正太の無事を見届けるために。
「正太君頑張って」
芳川君は心の中でそうつぶやいた。

作品名:命の30分間疾走 作家名:片田真太