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命の30分間疾走

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「でもお母さんのことあんなに愛してるって言ってたのに。そもそもうちの親がこんな高齢なのは元々再婚だからなんだ。以前の母親は戦時中の東京大空襲で亡くなってしまって。だから今の僕の母親とは再婚なんだ。でもその母親もまた病気で亡くなってしまったからまた愛人を田舎に作ったんだ。」
「そういう難しい話はよく分からないけどお父さんも色々と寂しかったんじゃないの?」
中学生の正太には難しい別世界の話に聞こえた。少なくとも自分の両親は田舎生まれで田舎育ちで平穏な生活を送ってきた。両親にはこのような派手な愛人関係の世界などとは縁が全くなかった。父も母も地元出身者だし愛人だの浮気だの話は全く聞いたことがなかった。
「寂しいというならそれはそれで分かるけどね。でもなんかそんな父が冷たく感じる。母親がしょっちゅう変わる自分の身にもなってほしい。」
しばらくしてからまた話始し始めた。
「それに、都会で成功した仕事って女性でいやらしい体をうる仕事みたいなんだ。それで大金もちになったんだ。そこの仕事の女性とも関係があったみたいだし」
「そうなんだ」
正太には返す言葉がなかった。
「そんな父親が僕は好きじゃないし。だから金持ちに生まれてよかったと思ったことなんて一度もない。うらやましいだなんて思われたくない。」
「そうだよね。」
正太には難しい話だったが何となく分かった気がした。芳川君は中学生なのに色々と大人の世界を知っているようだった。
しばらく談話した後、正太は帰ることにした。
「今日はありがとう。言いたいこと言えた。きみにしか話せなかった。ありがとう。」
芳川君の家を出て表に出たところにガキ大将と子分が待ち構えていた。
「お前の家に電話したら芳川の家に居るって聞いたもんでな。」
「何の用だよ。」
正太は身構えるようにそう言った。
ガキ大将が話始めた。
「ここのところお前俺の相棒たちを可愛がってくれてるそうじゃないか。」
「お前らの手下たちが芳川君をいじめてたからだ。」
「そいつらがそんなことするわけないだろ。」
「本当だって。」
「そんなことはどうでもいい。相棒を傷つけるやつはやり返さないとな。」
今度は子分を5人も連れてきていた。3人でも敵わなかったのに5人では勝負にならない。
「芳川逃げろ」
芳川君はおどおどしてその場で立ちすくんでしまった。
「やっちまえ」
子分たちがいっせいに襲いかかってきた。
正太はぼこぼこに殴り倒されてしまった。
「思い知ったか」
子分たちは吐き捨てた。
「どうだ!正太」
「どうだって?・・・お前かっこ悪いよ。大沢」
ぼこぼこの傷だらけの顔で正太はガキ大将にそう言った。
「かっこ悪いだって?」
「そうさ、昔のお前は確かに乱暴だったけど、弱いやつとは闘わなかった。強いやつとだけ闘った。それに弱いものいじめしているやつもとっちめていた。今のお前は弱いものいじめしている部下をやられた恨みでやり返す卑怯ものだ。」
「何だと?」
「本当は知ってるんじゃないのか?芳川はお前の子分たちにいじめられてたんだ。それを見て見ぬ振りしてたんじゃないのか?」
「うるさい、黙れ!」
「植村にやられてからのお前は正義の番長なんかじゃない。ただの卑怯な負け犬だ。」
ガキ大将は怒り狂ったように言った。
「あれは俺の負けじゃない!俺は負けたりしない!」

「かっこ悪いよお前」
正太は言った。
「本当にかっこいいやつは喧嘩に強いやつじゃない。正々堂々と闘えるやつのことを言うんだ。あのとき喧嘩に負けてもお前はいさぎよく負けを認めてればかっこよかったんだ」
ガキ大将は怒り狂った。
「喧嘩が弱いやつは番長になれないんだよ。」
「卑怯なやり方ででも勝ってもかっこいいのか?」
「うるさい、黙れ!」
その時子分の参謀のような長谷川と言われているやつがガキ大将にこそこそ何かを耳元で話し始めた。
「なるほど・・・」
話終わると正太の方にまた向かって言った。
「正太よ、喧嘩が強いのがかっこいいわけではなく正々堂々としたものが強いのなら、俺と度胸試しをしろ。どちらが本当にかっこいいか勝負だ。」
番長は何やら手下に何かをアドバイスしてもらったらしくそう話しはじめた。
「今度の日曜宮下坂の線路前の丘の土砂で度胸だめしをしよう。」
思わぬ提案に正太は驚いたが何をするのか聞くことにした。
「何をするんだ。」
「宮下坂の線路の上には土砂の断崖絶壁がある。そこに向かって自転車を一斉にこぐんだ。先に怖くなってブレーキをかけて止まった方が負けだ。」
芳川君はもごもごしたように
「そんな危険なことやらない方がいいよ。乗せられちゃだめだよ。」
確かに怖かったがこれ以上芳本君がいじめられるのが許せない自分もいた。
「いいよ受けて立つよ」
正太は即答してしまった。

決闘は来週になった。


来週の日曜日に宮下坂近くの丘の上に全員で集合した。朝の午前10時を回ったところだった。日差しは相変わらず春なのに熱く照っていた。正太と芳川君は時間前に集合したが、ガキ大将たちは少し遅れてやってきた。子分は5人ほど連れてきているようだった。あの長谷川というやつもその中にいた。
「よくびびらずに来たな。それだけは褒めてやる。」
「当たり前だ。」
正太は言い返した。
ガキ大将が子分の長谷川になにか指示を出したようだった。長谷川というのがガキ大将の代わりにルールの説明をし始めた。
「まず、この木のスターラインから一斉に自転車を走らせる。向こうの崖の上まで一直線で走る。先に止まった方が負けだ。向こうは電車の線路になっているが高さは10mほどしかないから死ぬことはない。だから飛び出したとしても大丈夫にはなっている。ただし落ちたときはものすごい怪我をするだろうけど。」
正太は
「それだけ?」
長谷川は続けた。
「辞めたいなら今のうちだよ。負けたくないなら。」
長谷川はわざと正太を挑発した。
「辞めるわけないだろ。」
正太はガキ大将に向かっていった。
「もし負けたら負けた方はどうなるんだ?」
ガキ大将は言った。
「負けたら度胸のない烙印を押されるんだ。」
長谷川が横から入ってきた。
「しかし、大沢さんそれだけじゃ面白くないですよ。何か条件をつけましょう。」
「別に男の勝負に条件もなにもないだろ。」
「もし正太たちが負けたら二人とも大沢さんや俺たちの言うことなんでも聞くっていうのはどうですか?」
正太はふざけるな、と思った。だがその代りに芳川君を助ける方法を思いついた。
「いいよ。ただもし俺たちが勝ったら二度と芳本君に近づくな。いじめるなって意味だ。」
長谷川はにやっと笑った。
「いいだろ。よし始めよう。では大沢さんお願いします。」
ガキ大将もその条件で納得したようだった。男の勝負ができればなんでもいいようだった。

  正太とガキ大将はスタートラインに自転車をまたいで構えた。二人とも緊張していてその緊張感が今にも周りを張り裂けそうな雰囲気にさせていた。芳川君は心配そうに正太のことを見ていた。長谷川が進行の指揮をとった。
「それでははじめます。いいですか大沢さん?」
「ちょっと待て」
作品名:命の30分間疾走 作家名:片田真太