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命の30分間疾走

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すると大将がその強いやつと決闘をする、というのが慣例だった。
  正太はそのような番長グループには属していなかったが、ガキ大将に決闘を申し込むようなことは興味がなかった。別段番長グループは汚い卑劣なことをしているわけではなかったし、喧嘩するほど仲がいいというか自分を全てさらけだして決闘をする慣行も別に嫌いではなかった。ただ、自分はそのようなことはしたくなかった。決闘すればみんな大けがをすることだってあるのだ。だから誰かがターゲットにされて決闘が始まるとそれを心配したり横目でみたりしていた。空き地や校庭でその決闘の場面を何度かみたことがあった。決闘では、慣例では子分たちは全く手出しをせず、ターゲットにされた強い男とされるやつと親分であるガキ大将の正々堂々の1対1の戦いをすることになっていた。そのガキ大将は負け知らずといわれるくらい強い男だったので大半はガキ大将の一人勝ちだった。しかし、ある日隣町から引っ越してきた植村というのがいた。背はすらっとしていて中学生の割には大人びていた。とても喧嘩は強そうには見えなかったが、隣町の学校の番長との喧嘩で勝ったことがあるという噂があった。子分たちはその噂をさっそく聞きつけた。
「大沢さん、隣町から引っ越してきた植村というやつ喧嘩が強いようなんです。」
大沢というのはガキ大将の名前だ。
「そうか、でもまたどうせ大したことないんだろ」
ガキ大将はあまり興味を示さなかった。この所強いものと喧嘩ができないのでやる気が失せているようだった。
「でも隣町では番長をぶちのめしたらしいです」
「何だと?そいつは面白いやつだ。やってやろう。よし、そいつを空き地に呼べ」
ガキ大将の腕は久しぶりに鳴った。

植村ははじめ決闘には興味がなかったので、子分たちの申し出を断っていた。
「何であいつは決闘を断るんだ?」
「何でも前の学校で番長はすでに倒したから決闘にはもう興味がないそうです」
「面白い。俺が直接会う」
ガキ大将は植村に直接会いに行った。
「俺と勝負しろ、真剣勝負だ」
「もう興味ないんだ、そういうこと」
「前の学校で番長を倒したそうだな」
「そうだよ。だからもう決闘には興味がない」
「自慢じゃないが俺はこの学校では負け知らずだ。負けは一度もなしだ。」
植村は少しの間だけ考え込んでいた。そしてしばらく間を開けてからやがて答えた。
「それなら面白そうだ。いいよ。いつやるの」
「明日学校の近くの空き地でやる」
「転向してきたばかりで場所がわからないよ」
「俺の子分たちが案内してやるから大丈夫」

次の日になって植村は放課後に子分たちに案内されて空き地へやってきた。空き地には親分が待ち構えていた。正太は植村が心配になって空き地へ見に行った。その他にも野次馬もたくさんいた。どっちが勝つか賭け事をして面白半分に見に来た連中もいた。
「よく来たな」
「言われたから来ただけだよ、さあさっそく始めよう」
ガキ大将は植村の言い方に少しむっときたが、そこは親分としての威厳を保ちたいがためにぐっとこらえた。
ガキ大将大沢と植村は互いに見合って構えた。正太はその様子をかたずを飲んで見守っていた。
少し間があったがやがて決闘が始まった。野次馬たちはただやれやれと無責任に騒いでいるだけだった。
はじめは植村はガキ大将のパンチやキックを受け止めたりよけたりしていて防戦一方だった。ガキ大将が勝つ方にかけた野次馬たちや子分たちはそれを見て喜んだり興奮していた。しかし、正太はあの負け知らずのガキ大将の攻撃を全て受け流している植村をすごい、と感じた。
何分かそんな攻防戦が繰り広げられた後にガキ大将は打ち疲れたのかよろめきはじめた。息も上がってきた。
「なかなかやるじゃないか・・・」
ガキ大将は最後決めてやるとばかりに大ぶりのパンチを仕掛けたが、植村はそれをすらりとよけてガキ大将がバランスを崩したところを飛び蹴りした。ガキ大将は瞬く間に吹っ飛んだ。そこをすかさず植村はガキ大将に何度もびんたやパンチをした。ガキ大将も負けずと植村の胸元をつかんで反撃しようとした。しかし、やがて植村に首元をつかまれて負けそうになった。そのときガキ大将は近くにあった空き瓶を空いていた手で拾い上げて植村の頭に思いきりぶつけた。
「わー」
植村は思いきり叫んだ後その場で倒れた。頭から血を流していた。その場の野次馬たちは大変だ、というばかりにざわざわしはじめた。ガキ大将と植村はお互いに離れた。
ガキ大将は震えるように言い放った。
「負けじゃないからな・・・俺は負けてなんかないからな・・・」
そういい残して子分たちを連れて帰ってしまった。
正太は植村の近くに寄っていった。
「大丈夫?」
「これくらいたいしたことないよ。ただのかすり傷さ」
正太は植村は男らしいと思った。それにひきかえガキ大将はいくら負けたくないとはいえ卑怯だと思った。ずっと男らしいと思っていたのにその卑怯さにこの決闘の慣例が許せなくなってきた。それ以来正太はガキ大将に立ち向かいたくなってきた。


  
どこの学校にも浮いた存在とはいるものだ。そういうものはいじめの対象になりやすい。昔の時代は陰湿ないじめというのはあまりなかったがそれでもあることはあった。
正太の学校はガキ大将が喧嘩をしたりやりたい放題だったが、ガキ大将は強いものを倒すことにしか興味がなかったので、弱いものいじめをする連中にも決闘をしかけた。だから正太の学校にはいじめがガキ大将のおかげでなくなっていた。だからこそ正太はガキ大将の無鉄砲さを許していた。
  しかし、植村との決闘に敗れて以来ガキ大将は急変した。いじめをする連中をほっときっぱなしにした。決闘も全くやらなくなった。子分たちは今まで親分が怖くて弱いものいじめをしなかったが、親分の目を盗んで弱いものいじめをするようになった。
  正太の学校には去年都会から引っ越してきた金持ちの芳川君という同じクラスの子がいた。この芳川君というのが家が大の金持ちで田舎町では珍しかった。車を一家に一台もっているなんて珍しい時代に、時々家から車で学校まで何者かが迎えに来ていた。
正太の学校は田舎町でみんな貧乏だったから芳川君を珍しがった。中には金持ちに嫉妬するものや敵意を抱くものもいた。なぜこんな金持ちがなにもない田舎町に引っ越してきたのかは謎だったが、なんでも芳川君の父は高齢で本業の都会での事業を右腕に任せて自分は引退気分で田舎でのんびりと余生を過ごそうというような噂だった。しかし詳しいことはよく分からない。
作品名:命の30分間疾走 作家名:片田真太