短編集『ホッとする話』
僕は結局この大学に入学した。
入学当初は本命の受験に失敗した屈辱感と劣等感が心の奥底からなかなか離れないでいたが、二回生の時のちょうど同じころ、キャンパスに雪が積もり、緑の芝生が純白に染まった。大学の仲間と共に年に一度あるかないかの雪景色を見て、あの時の風景がここにいる三人の頭に浮かんだ。当時は全く知らない僕たち、だけどあの雪の日、僕たちは同じ日の同じ時間帯、キャンパスに積もった同じ雪を見ていた。
「俺ら、この学校でよかったな」
「あたしはあの時この景色を見てここに決めた」
「でなきゃあなたと出会うことなかったもんね」
横にいる三人の言葉に僕は
「ああ……」
としか答えられなかった。
僕は嬉しかった、それから三人と別れて一人になった僕は、芝生に入ってみたくなった。僕は真っ白のフィールドに足跡をつけ、白い芝生の真ん中で立ち止まると上を向いた。寒く冷たい風に顔を撫でられると、涙が溢れてきた。そして僕のわだかまりは次の日には芝生に積もった雪のように消えていた――。
作品名:短編集『ホッとする話』 作家名:八馬八朔