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短編集『ホッとする話』

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 芝生の手前少し外れたところに足を向けた。ここだけは雪が積もっておらず、たくさんの人が群れをなして騒いでいる。さっきここへ来る時にすれ違った人たちは、おそらくみんなここから来ている。目の前に掲げられたボードを見て一喜一憂、胴上げする人、涙を流す人、万歳する人――、静かな雪景色とは大違いでここだけは熱い祭りのような熱気だ。
 手にした受験票、番号、学部を確認。手応えはなんとも言えないが持てる力は出し尽くした。僕は既に決定されている結果が良いものとなるよう無駄な祈りを続けた。足取りは重い、それでも前に進んでいる。
 掲示板の目の前に立ち、番号を探す、近い番号を見付けた僕は順繰りに数えた。そして時間が止まった。

   ――ある!

 僕は白い雪のキャンパスで小さくガッツポーズをとった。一年の努力が認められた瞬間だった。このときばかりはこの先にある本命の大学のことを忘れて喜んでいいと思った。
 あれはこの地域に珍しく雪が積もった20年前の今ごろだった。

 結局手にした合格通知はこの一つだけだった――。