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短編集『ホッとする話』

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十八 碑文のない碑


 
   〜碑〜

 北海道の北に横たわる島・樺太。現在はロシアが実行支配(旧ソビエト時代を含む)※しているが、かつては南半分は日本領であり、そのまた前は帝政ロシア領であったり、それ以前は混在を認める世界があった。
 同じ島の同じ地域で、100年内の間に帰属があっちこっちへと変わり、日本やロシアがこの島に進出する以前から自然を尊敬し、自然と共に生きる民たちはその度に神の住む大地を奪われた。
 その民族はアイヌと呼ばれ、21世紀の現代においては明治期の日本による同化政策が進み、現代ではアイヌの文化は言葉を含め積極的に保存をしなければ消え行くほどのきわめて憂慮すべき状況にある。

 西暦2000年、20世紀最後の年。ある日本人の一団は、かつてアイヌが多く暮らしていたという樺太の村を訪ね、現地のロシア人に案内されてさらにその奥、川を越え、森を抜け、吊り橋を渡った、川が見える林の合間の小高い丘の上にたどり着いた。ここには土が山の形にいくつか盛られていて、音のない空間が一団を包み込む。
「ここですか……」
「おそらく、間違いないでしょう」
 一団は、それがアイヌにとって理に叶っているかいなかはわからない。しかし、日本人としてそして21世紀という新しい時代を生きる者の責任として、そして彼らの思いに応えたい、そして一人でも多くの人に日本という国のために死力を尽くした民族がいるということを知ってもらいたいことを祈念して、この盛り土のほかに何もない丘の上に一つの碑を建てた。




※南樺太の帰属は現在も問題がありますが、本作ではロシアの実行支配と記述します。