短編集『ホッとする話』
休みを取ったデビッドは旅行を決め込み、今回の目的地は日本に決めた。以前のプロジェクトで一緒に仕事をしたスズキという名前の日本人が一度日本を訪れて欲しいという連絡があって、ちょうど飛行機の便など今回の休暇にマッチしていたのが選択の理由だ。
仕事でいろんな国を訪れたが日本は初めてである。世界の先頭に立つ技術と文化の国をこの目で確かめられることにデビッドは心が踊っていた――。
予定を建てずに、そして旅のサプライズを求めるあまり現地の情報はできるだけ入れないようにするのが自分のルーティン。長らく取れなかったまとまった休みを謳歌しようと喜び勇んで日本を目指したがしかし、入国審査でいきなりの壁にぶち当たることになった――。
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スーツケースをX線検査機に通すデビッドは審査官にチェックを受ける。
「中身を見せてください」
「ああ、いいとも」
日本という国は初めてだが、外国には何度か行ったことがあるので入国審査が厳密なのは重々承知。特にセキュリティの厳しい日本だからそれも尚更なのは仕方がない。
麻薬など禁製品は持っていない自信があるので何の躊躇もなくデビッドはスーツケースを開けて見せた。
「――これは持ち込みができませんね」
審査官が取り上げたのはカートンのタバコだった。
「持ち込みできないのか?免税の間違いだろう」
予想していなかった対応に戸惑うも審査官は首を横に振る。
「いいえ。先日成立した『喫煙法』で、海外からのタバコの持ち込みは事前の許可が要ります」
「なんと、そんな法律があるのか」
ここで初めて聞くくらいなので、デビッドはそんな法律があることなど知らなかった。名前で想像はつくが具体的にどんな法律なのか審査官に聞いてみることにした。
「はい。簡単に言うと、我が国では喫煙をするには免許が必要となります」
――なんと。日本では喫煙するのに免許が必要なのか。それを破れば何らかのペナルティがあるのは想像できる。まあ、仕方がない。旅は数日のものだから、デビッドは諦め半分に頷いて出国の際に返還の手続きを取って日本に入国することとした――。
作品名:短編集『ホッとする話』 作家名:八馬八朔