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短編集『ホッとする話』

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ニ五 ふてくれぼうず



 私がまだ小学生だった頃の話。

 梅雨時は毎日と言っていいほど雨が降る。私は外で遊びたいのにそれができないから、毎日家で退屈していた。 
 私の住む町は農村で、雨が降ると道が土でドロドロになる所が多くて、隣の家が遠いから近所といっても近所でなく、どこへ出掛けるだけでも靴がドロドロになる。主な遊び場である近所のお寺の境内は、合間の晴れの日程度では地面がベタベタのままだ。そんな田舎だから、雨の日は遊ぶ所もないので学校から帰ったら出掛けることはまずなかった。

   * * *

 そんな梅雨時の週末、雨の日がかれこれ三日も続くと私は家ですることがなくなった。本を読むのも飽きてしまったし、テレビもうんと見た。
 畑に出ることができなくて、晴れた日にはしない作業を納屋でしてるお父さんやお母さんに愚痴を漏らしたら逆に、
「雨の日くらいは家で勉強したらどう?」
「晴耕雨読ってコトバ知ってるか?」
と言われ、子供ながらにここは深入りしない方がいいと思って私はおじいちゃんの部屋に避難することにした。

「まぁ、農家にとっては雨も必要なんじゃよ」
 おじいちゃんはそう言って私を慰めてくれるけど、私には直接関係ない話だ。
 農家にとって雨がどれほど大事なのかは、農家の娘だからよく分かる。日照りが続けば作物は枯れる、学校で習う前から知ってることだ。
「おじいちゃん、一日でいいから晴れの日を作ってよ」
「麻衣子の願いは叶えてやりたいけんど、雨を止めることは難しいのう」
 おじいちゃんは私が外遊びがしたいことを日頃見ているので知っている。でも、こればかりは私も無理なお願いであることはわかっている。
 それから退屈しのぎにおじいちゃんとトランプでもして遊んだけど、それもすぐに退屈になって自分の部屋に戻った。
「ああ、晴れた日で外遊びしたいなぁ」

 お母さんの言うように雨の日くらいは勉強をとは思うだけで、机にあった国語辞典でお父さんの言う「晴耕雨読」を調べて見たら、自分にイヤミを言われてるように感じて結局その頁を開いたまま机に足を乗せて口を尖らせて鉛筆を鼻に挟んだ。
「ぶーっ、退屈」  

 そうやって雨の音を聞きながら無駄な時間を費やしているとわ私の愚痴が聞こえたのか、おじいちゃんがふすまを開けて部屋に入ってきた。
「麻衣子が外で友達と遊びたい気持ちは分かるんじゃけど、今日のところはこれで許してくれんか」
「なになに?」
 いつもワガママを言う私を見かねて、おじいちゃんがそう言って私に白いハンカチに細工したものを私に差し出してくれた。
「これで明日は晴れるじゃろう」
 おじいちゃんはそれを部屋の窓のカーテンレールに頭から出ている紐を引っ掛けて、私の頭に手をポンと一度置いた。
「本当だ、これで晴れたらいいのになぁ」
「そうじゃのう。ただ、まじないくらいのモンじゃから、大きく期待せんでの」
「はーい……」
 おじいちゃんが私にくれたもの、手作りのてるてる坊主だ。

 おじいちゃんは手先が器用なので、短時間で作ったてるてる坊主の割にはしっかりと、確かに上手にできている。だけど一つだけ引っ掛かる部分がある。
「何で口が尖ってんのさ」
 引っ掛かる部分、それは表情のことだった。

  ノ ヽ
   ・ ・
    3
 
 眉はハの字で目が点、そして口は数字の3みたいにとんがっている。
「『へのへのもへじ』よりはマシかと思ったが……」
 手先は器用なのはいいことなんだけど、おじいちゃんは絵が得意ではないみたい。だけど、私のことを気遣って用意してくれたものだからとりあえずお礼を言って堅い笑顔を作った。
「これじゃあ『ふてくされぼうず』じゃんか」
「ほぅ、麻衣子もなかなか良いネーミングをするのう」
 私の思いつきを受けておじいちゃんは手をパチンと叩いて笑った。
「『ふてくれぼうず』、これはおもしろい」
「『ふてくされぼうず』って言ったんだけど」
思わず出た言葉におじいちゃんはガッカリするどころか、勝手にアレンジしてご機嫌の様子だ。私もそれにつられてこのふてくされた顔が何とも愛苦しくなって、自分の中でもこれを『ふてくれぼうず』と思うようになっていた――。

「雨降りが続いてるからコイツもふて腐れてるんじゃ。でも、雨はいつかは上がる。イライラしたら良いことも雨で流れてしまうぞ」
 おじいちゃんはウケた余韻に浸るように私の部屋から出ていくと、部屋は私一人、いや、新顔のふてくれぼうずと相部屋することになった。