逢魔ヶ刻の少女
塩コーヒーに戦慄すること十分。カンテラは漸くここに来た理由を思い出した。
「そうだ、マスター。この町の、特に九十年代に付いて詳しく知りたいんだけど、なんか知らないかな?」
そう言って、カンテラはバックパックからプリント用紙を一部取り出した。その用紙には、彩花市の年表がプリントされていた。
「この九十年代の記述がぽっかり抜けててさ」
他の年代も同じことであるが、カンテラにとってこの九十年代の記述が大切なのであった。
「バブルがはじけた頃ですか。そうですねぇ……まあ、大きな事件もありませんでしたしねぇ。というより、色々あり過ぎて郷土史にはまとめきれなくなった、が正しいのかもしれません」
なるほど。尺の問題だったか。カンテラは納得し、用紙をポケットに仕舞う。
「町の図書館なら当時の新聞もありますし、近年史をまとめた冊子があったと思いますので、尋ねてみては?」
「そりゃありがたい」
更にそれから十分ほどコーヒーを楽しみ、店を出る。
ちらちらと雪が降り始めていた。その雪をぼぅっと眺めつつ、カンテラは歩き始める。バックパックに吊るしたカンテラがかちゃんと音を立てる。
まだ日が落ちるには早い時間だ。しかし、この町の夜は早く長い。気を抜いているとすぐに暗くなってしまう。山に太陽光が阻まれる為に日照時間が短くなるのだ。
図書館に行くのは良いとして、今から行っても閉館時間に間に合わないだろう。よしんば間に合ったとしても、資料を物色する時間がない。
とりあえず、今日は廃レストランに戻ろう。憂鬱だが、まあ、今のところ実害があるわけではないのだから。