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逢魔ヶ刻の少女

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「――事案ですね」
「いや、ちょっとまって。女子中学生と世間話をしただけで声かけ事案っておかしくないかなっ!」
「だから声掛け事案なんですよ、このロリコン」
 彩花市中央区。駅前の喫茶店、霧雨堂。初夏の強い日差しから逃げる為にと飛び込んだ客によって、その喫茶店へ珍しいことに盛況だった。
 ――と言っても、結局は席の半分どころか四分の一すら埋まらないのだから、この町での飲食業は詰んでいるのではないかと、カンテラは思うところだ。この有り様で、何故この町の飲食業はやっていけるのだろうか。
 現状はどうあれ、結局は暇なので、従業員は客との会話に終始してしまう訳だ。今日もカンテラは霧雨堂のウェイトレス、【峰原あやめ】と世間話をする。
「いや、ロリコンじゃないから。むしろあやめさんみたいな女の人が好みだからっ!」
「セクハラですか? 慰謝料請求ですね」
「OH!」
 ここ数カ月霧雨堂に通う中、カンテラと峰原あやめの関係は客と従業員という関係からこの程度までには後退していた。
「ジェンダーフリーなんて嘘っぱちだぁ。結局女尊男卑社会なんだぁ。これだから人間社会は嫌いなんだぁ」
 だったらさっさと仙界に引っ込めばいいのに。近くでアイスコーヒーを飲んでいた猫又は思った。
「『男』が『女の子』に道を聞かれて事案とか」
「えっ? ちょっとまって僕の聞き間違えかな。なんか言葉の順序が逆じゃないかな?」
「いいえ、逆じゃありませんよ。そのうち本当にあり得るかもしれない。もしくは本当にあったかもしれない怖い話です」
「怖っ! 何それチョー怖いっ!」
「痴漢冤罪とかゆーのも」
「やめてっ! 僕その手のホラーが一番苦手なのっ!」
 確かに。下手な怪談なんかよりも余程怖い。と、テーブル席で打ち合わせをしていた背広姿の骸骨男は思った。
「というか、カンテラとか怪しげな通り名を通すような不審人物、早々に交番に送り届けないといけないと思うところなのですが」
「なんでそこまで僕に対して惨いことを言えるのさっ!」
「哀故にです」
「そんなドM専用の愛はごめんこうむる」
「何を勘違いしてますか。愛情の愛じゃなくて哀愁の哀ですよ」
「何に対して悲しみを背負っちゃってるのかなぁっ!」
 とかなんとか。そんなネタ会話の応酬をするのがここ最近の日課となっているわけだ。
「まあホントは、貴方には遠慮はいらないと最近気付いたので」
「遠慮のいらない仲っていいよね」
「そうそう。いつ後ろから刺しても気兼ねしなくていいですし」
「あれ……遠慮のいらない仲ってそういう仲だったっけ……」
 少なくともカンテラはそんなこと聞いたことがなかった。
「それにしても、カンテラさんでも怖いモノはあるんですね」
「そりゃね。人の悪意とか不運不幸というのは怖いよ、うん」
 そう言いながら、カンテラは頷く。その諦観の混ざった頷きが、少しあやめは気になった。
「でも、一番怖いのは、お化けとかかな?」
「――っぷ」
 そして、カンテラのその予想外の台詞にあやめは破顔してしまう。
「ちょ、ま。そんなおかしなこと言ったかなっ!」
「い、いえ。あまりに可愛らしいものが怖いって言うものだから」
 カンテラはあやめの台詞に顔を染める。確かに、言われてみれば子供っぽい台詞だとも思う。
「うん、まあ。確かに。字面だけみたら子供の怖いモノだね」
 そして、その赤ら顔を引き締める。それでも中々恥ずかしさが引かないのか、顔が赤い。その所為で無理して取り繕っているように見えて、その様子がまた可愛らしいと、あやめは思う。
「生きてる人間の方が怖い、なんて言うけどさ」
 そう恥ずかしそうにそっぽを向きながらカンテラは言う。
「やっぱお化けも怖いよ、うん」
「――そういえば、この町に来た頃も、そんなこと言ってましたね」
 店主のその台詞に、カンテラはこの町に来て初めて出くわした事件を思い出す。
「あー、そういえば。そんなことも……あったなぁ」
 一月の話だった。

作品名:逢魔ヶ刻の少女 作家名:最中の中