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ワルツ ~二十歳の頃~

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 ある日曜日、いつもは朝の十時開店のパチンコ屋に行くヒデが、十時になっても出かけようとはしないので、「あれ、今日はパチンコへ行かないの?」と聞いた。
 ヒデは抑えようとしても嬉しさが出て来るのを抑えきれないという感じで、「今日デートなんだ」という。
 俺はビックリして「ええ、出来たの? 彼女」と聞いた。ヒデの返事が聞こえてくる間に、俺の頭は嫉妬と疎外感が混じったような情けない気持ちになってしまった。これまで二人で女っ気が無かったが、俺だけが取り残されてしまった。
「会社の女の子なんだ。ここを見たいと言うのでちょっと顔を見せるよ」
 ヒデは部屋を眺めて、裸の写真の載った週刊誌を押入に放り込んだ。そして腕時計に目をやって、また落ち着きなく部屋の中を見回している。ヒデのステレオとレコードの入った木の箱、何冊かの本。俺の目の前には画材とイーゼルに載った描きかけたままの絵があるだけである。散らかりようもないシンプルさだった。
 ヒデだけでなく何だか俺もそわそわしてしまう気持ちだった。このままどこかに逃げてしまいたいような、また若い女の子が目の前にいるという体験もしてみたかった。
「そういえば、彼女いくつ?」
 俺はさりげなく聞いた。
 ヒデは落ち着きなく腕時計を見たり、立ったりしゃがんだりしながら「同じ歳だよ、二十歳、誕生日は聞いてなかったなあ。最近会社に入った女の子なんだ」と言って何かを思いだしているような目をした。
 ヒデが出ていって、俺は敗北感と好奇心の入り交じった気持ちで部屋を見回す。描きかけの絵を隠すべきか、あるいはもしかしたらこの絵が彼女の気を引き、まだヒデと付きあい続けるかどうか分からないかもしれない彼女の気を引けるだろうか。すべて自分に都合のいい、なる筈のない思いに気づき、我に返った。
 何やら話している声が聞こえて来て、やがて階段を上ってくる足音が聞こえて来た。俺は描きかけの絵を裏返しにして、壁際に立てかけた。
 ヒデの後ろからついて来た彼女は、顔が小さくてくりっとした目の可愛い女の子だった。
化粧っけのない顔にやや赤みをおびた健康的な顔色。髪もショートで、気の強そうな目の光り。俺の好きなタイプだった。俺は自分の彼女ではないのに、嬉しくなってしまった。初夏の季節、少し汗をかいたのだろうか。汗の匂いがしたが、その匂いもまたうっとりしてしまう。
 ヒデが紹介する言葉も耳に入らないままに、見とれてしまった。ヒデは買ってきたコーラをグラスについでいる。
 彼女が「絵をやっているんですか」と聞いてきた。
「ああ、うん、モデルになってくれる?」と俺は自分でも意外な、大胆な言葉が出てしまった。
「ん? 裸になる?」と彼女はワンピースの肩に手を置いて冗談とも本気ともとれる感じで俺を見た。俺はぱっと裸の彼女を想像して顔を赤くして、下を向いて何を言えばわからなくなっていた。
「おいおい」ヒデが彼女をたしなめる。彼女は悪戯っぽい顔をして首をすくめ笑った。
――か、かわいい―― 俺は自分の彼女じゃない不条理を嘆いた。
「ああ、レコード。どんなものがあるの?」と彼女の関心はもう他に行っていて、ヒデのレコードを見つけてアーチストを確かめている。
 彼女は「知らないなあ」と言いながら見ていたが、コーラを飲み終えるとヒデの「じゃあ、映画でも見に行くか」という言葉で、すぐ立ち上がり俺に向かい「おじゃましましたー」と元気よく言ってヒデと一緒に出て行った。