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ワルツ ~二十歳の頃~

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 土曜日の夕方、街は人であふれている。二人で食事をして外に出た所だった。
「今日は遅くなってもいいんだ」と俺の反応をさぐるような目をして純が言う。 
 俺はすぐには返事が出来ずにいた。
「同室の先輩に、久しぶりに会う高校の同級生の所へ泊まりに行くって言ってきたから」
 そう言ってほっとしたような顔をした。それは勇気のいる言葉だったのだろう。俺はいとおしさを感じて、その背中にそっと手をかけた。純が見上げる。俺はうなずいて、これからどこへ行こうか考えた。
「じゃあ、俺の部屋に行ってみる?」と聞くと、純はうなずいた。
 私鉄の改札口を出て、手をつないで歩いた。いつもは一人で通る商店街も今日は明るく活気に溢れているように感じる。純は一店一店確認するように見ている。
「どう、この町?」俺は純の横顔に目をやりながら聞いた。純がビックリしたような顔をしたあと「えっ、ああ。はははは」と笑った。
「どうしたの、急に笑ったりして」俺は何が可笑しいのかとあたりを見回した。
「いや、私がね、今勝手に想像してしまったの」
「何を」
「ああ、あそこで野菜を買って、あそこで肉を買って、乾物屋で煮干しを買ってと想像しながら歩いてしまってたの」
「ああ、そう。俺のためにならうれしいけど」
「あっ、そうか。私、誰にとも考えてなかった」
「変なやつ」
 二人は笑いあいながら歩いた。
 部屋に入り、純は小さな流しとガスコンロ一つの二畳ほどの部屋を見回し「料理するの?」 と聞いた。
「インスタントラーメンを作るのとお湯を沸かすぐらいかな」
「やっぱりね。でもフライパンもあるね」
「ああ、目玉焼きを作ったかもしれない」
「今度、作ってあげようか?」純は俺について六畳に部屋入りながら言った。
 俺は幸せでいっぱいだった。今の顔のまま、知っている人にあったなら、たぶん冷やかされるだろう。自分でもわかるほどにやけている。何ヶ月か前は、金もない、彼女もいない、と悶々とした日々を過ごしていたのだから。まさに天国と地獄の差とも思える。
 部屋の隅にある描きかけの絵を見つけ、純がじっと見ている。背中からお尻までの半裸だ。どんな感想を言うのだろう。
「まだ、完成してないから」と俺は弁解がましく言った。
「この絵のモデルいるの?」
 純は、嫉妬しているのだろうか。それとも単なる疑問だろうか。
「ああ、想像」と俺はそっけなく答える。
「ふーん、それで顔が決まらないんだ」と自分を納得させるような口調で純が言う。
「好きな人が出来たら入れようかと思ってたんだ」
 成り行きでそんなセリフを言ってしまって、俺は純が好きな人ではないかと思った。しかし最近絵は忘れられていた。
 純は絵から目を離し、レコードが並んでいる隣の雑誌を取り出した。
 俺は、「あっ、いけね」とつぶやき、純の持っている雑誌をを取り返そうとした。純は反射的とも言える速さでその手を引いた。
「まあ」と、どちらに驚いたのかわからないが、純はそのまま雑誌をめくっている。俺は後ろから抱きかかえるようにして、その本を閉じさせた。雑誌が畳に落ちて、行儀良く表紙を見せている。
 女性もヌード写真に興味を持つのだろうか。そう思いながら後ろから純を抱きかかえた
ままそっと顔を伺う。純は目をつぶってじっとしている。俺は両手を乳房に持って行き、
軽く触れた。ピクンと純が反応して「あっ」と低い声をもらした。外見からわからなかった量感と弾力に感動した。ふと男性週刊誌でみた記事を思いだした。ゆっくり、やさしく、焦らないで。
 虚脱感と少し誇らしげな感じで目が醒めた。側にはもうスカートを直し、何もなかったような姿で純が寝ている。少し寒くなってきたような気がして、押入から毛布を出して、純を起こさないようにそうっと掛けた。純の口が何かを言っているように少し動いた。俺はその寝顔をじっと見て、自分が母親になったような気分でいるのに苦笑した。まだちゃんとした大人だという自信もないのに。