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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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 ゼノが散々てこずった魔物を、アルベルトは瞬く間に五体も仕留めてしまった。それも速いだけではない。敵の急所を的確についた正確無慈悲な剣捌きだ。見事な剣舞に、ゼノは思わず呟いた。
「おまえ、すごいんだな・・・・・・」
「何がだ?」
「剣の腕だよ。オレは散々アイツら相手に苦戦したのに」
 いくら得手不得手とか相性とかがあるとはいえ、こちらが倒せなかった魔物をあっさり倒してしまったのだ。フロンダリアでもそうだったが、アルベルトの力量はこちらとは段違いのようだ。剣士として、非常に羨ましい。
「ああ・・・・・・確かに剣術は得意な方だが、俺なんてまだまだだよ」
 いやそれだけあれば十分すごいと思う・・・・・・と言いかけたものの、こんなことで押し問答してもしょうがないので黙っておく。足枷を破壊した時の曲芸じみた剣捌きといい、『得意な方』とかいうレベルではないと思うのだが。
「それより、まだいるぞ」
 剣を構え、洞窟の奥を見据えたアルベルトは、静かにそう言った。ゼノも再び剣を構え、同じ方向を向く。カンテラの明かりは小さくて、洞窟の奥はよく見えない。しかしアルベルトには見えているらしい。そこにいる、何者かの存在が。
 すると突然、闇の中からあの魔物達が飛び出してきた。予測していたことだから、先程よりも心の余裕はある。余裕だけでなんとかできるスピードではないのだが、そこは前回の反省を踏まえ、ゼノでも仕留められる方法を取る。先行するアルベルトの剣を避けた魔物の、わずかにできた隙を狙うのだ。
 なんとかそれで魔物を倒し、アルベルトに続いて洞窟の奥へ向かう。魔物が湧いてくるそこに、何かが潜んでいる。襲い掛かってきた魔物を斬り倒して、カンテラの光を翳すと、その何者かの姿が、ぼんやりと浮かび上がった。
 小さな、黒いローブを着た人間の姿だ。
「悪魔教徒!?」
 見知ったローブ姿に、ゼノは驚きの声を上げた。間違いない。あの黒ローブは悪魔教徒と同じものだ。やはりここに悪魔教徒が潜んでいるのか。そして、シリルもここにいるということなのか。
 悪魔教徒は手を上げると、魔物が再び闇の中から飛び出した。どうやらあの悪魔教徒が魔物を操っているらしい。魔物を止めるには、あの悪魔教徒をどうにかしなければ。魔物を退けながら、ゼノとアルベルトは悪魔教徒の元へ向かった。
(――? 小さい・・・・・・?)
 悪魔教徒に近づいた瞬間、ゼノは黒ローブの人物の背の低さに驚いた。小さい。せいぜいゼノの腹のあたりまでしかなさそうだ。時折甲高い笑い声をあげながら、悪魔を操っているのは確かにこいつなのに、驚くほど小さな身体だ。これではまるで――
 アルベルトが討ちもらした悪魔を退けて、ゼノは悪魔教徒に向かって剣を振り下ろした。しかし横からやってきた魔物が割り込んで、ゼノを弾き飛ばしてしまう。なんとか受け身を取って起き上がると、ゼノは悪魔教徒に向けて、カンテラを投げつけた。カンテラは悪魔教徒の顔に向かって飛び、ぶつかる前に魔物が防いでしまう。けれどそれは想定内だ。なんでもいいから、奴らの注意をひければ良かったのだ。
 悪魔教徒が背後に迫った人物に気付いた時にはもう遅い。
 アルベルトが放った剣閃が、悪魔教徒を弾き飛ばした。



「・・・・・・子供だ」
 フードの下から現れた顔を見て、アルベルトは絶句した。体格からも推測できたが、せいぜい十歳ぐらいの痩せ細った少年である。そう見えるのは発育が悪いせいなのかもしれないが、悪魔教徒として魔物を率いる者としては幼すぎる。剣の腹で弾き飛ばし倒れた少年は、赤く染まった目を剥くと、胸を押さえて苦しげに絶叫した。取り憑いた悪魔が、少年の魂を蝕んでいるのだ。このままでは、危ない。
「悪魔の浸食が進んでる。速く何とかしないと・・・・・・」
「え!? こいつ助けるのか!?」
 驚いたようにゼノが言うので、アルベルトは思わず彼を厳しい目で見た。
「こんな子供が、自分の意思で悪魔教徒になり悪魔憑きになったと思うのか?」
 きっとこの少年は幼児の頃、下手すると生まれた時から悪魔教徒に育てられて、悪魔教の教えを叩き込まれて育ったのだろう。そうして悪魔教徒になり、悪魔をその身に宿すまでに至ったのだろう。そういう風に育てられた子供の悪魔教徒がいるという事実が、いくつか伝えられている。自分の意思でこうなったわけではないのだから、見捨てることなんて出来ない。
「そ、そりゃあ子供に罪はねえよ。でも、こいつは悪魔教徒だ。こいつを癒せるのか?」
 そう言うゼノの眼には不信の色があるような気がした。貧民街の人を救わなかったのに、悪魔教徒は救うのか。そう言いたいのだろうか。それとも、文字通りの意味だろうか。
 ただ文字通りだとしても、少年を癒せるかという質問を肯定することは出来そうになかった。アルベルトは一人では悪魔祓いが出来ない。この術は非常に高度で、高位の悪魔祓い師でなければ一人で行うことはまず出来ないのだ。それにリゼと違って、悪魔祓い師の祓魔の儀は時間がかかり、多くの聖具も必要とする。アルベルトただ一人。補助もなく、聖具もなく、悪魔祓いを完遂できるはずもない。
 はずもないが――試しもせずに諦めるわけには、いかない。
アルベルトは一人では悪魔祓いが出来ない。この術は非常に高度で、高位の悪魔祓い師でなければ一人で行うことはまず出来ないのだ。それにリゼと違って、悪魔祓い師の祓魔の儀は時間がかかり、多くの聖具も必要とする。アルベルトただ一人。補助もなく、聖具もなく、悪魔祓いを完遂できるはずもない。
 はずもないが――
「試しもせずに諦めるわけには、いかない」
 今、ここにリゼはいない。どこにいるか、無事かどうかもわからない。そして数刻もしないうちに、この少年は悪魔に魂を喰われて死ぬだろう。躊躇っている暇はない。
「神よ。我に祝福を。我が祈りに耳を傾け給え。我が道を光で照らし、我が魂を導き給え。我が務めを為しえるよう力を与え給え」
 祈りを唱えてから、少年の首にロザリオを掛ける。少年は呻き痙攣していたが、ロザリオに触れてからは目を剥いて暴れ始める。その身体を抑えながら、アルベルトは祈りを続けた。
「神よ。彼の者に赦しを与え給え。安らぎを与え給え。彼の者が犯した過ちを清め給え。驕りから引き離し給え。真実を与え、光を与え、無垢なる者と成らせ給え。彼の者に救う邪悪を打ち祓う力を与え給え。光満ち、穢れなく、正しき道を歩ませ給え」
 祈りに合わせて、少年の首に掛けられたロザリオが淡く発光する。それと共に、少年はさらに苦しげに暴れまわる。
「神の名において汝に命ずる。彼の者は神の使徒、神のしもべ、神の子羊。その魂は光の内にあり、神に属するものである」
 祈りを一言進めるたびに、少年は苦しげな叫び声を上げる。それは少しずつ濁り、禍々しい雰囲気を帯び始め、やがて人とは思えぬものへと変わっていく。
 ――グアアアアアア!
 少年が発した咆哮が、洞窟の空気を震わせる。祈りの言葉を掻き消してしまいそうなその咆哮に耐えながら、ひたすら術を続ける。