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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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「オレ、知り合いの商人の護衛の仕事でアルヴィアに行くことがあるから、一応アルヴィア人ってだけで嫌うつもりはないんだ。アルヴィア嫌いのミガー人は多いけど、敵意ばっか向けてもしょうがないし、神様の話さえしなければ、たいがい普通の人達だからさ。シリルのこともどうとも思わなかったし・・・・・・でも、教会の奴らは・・・・・・悪魔祓い師は違うんだ。あいつらは、ミガー人を迫害した張本人だからな」
 五百年前の魔女狩りで、たくさんの魔術師が処刑された。魔術師だけでなく、マラーク教から見て異教徒に当たる者、ミガーの神々・精霊神を信仰する者達を、次々に火刑台に送った。悪魔を崇める、邪悪のしもべとして。
「もちろん、おまえは悪くねぇよ。オレ自身、そこまで酷い目に合わされたわけじゃないし。でも、あいつらのやったことをずっと教えられてきて、どんな残酷なことをしたのかも知っているから、教会の奴らだけは無理なんだ。おまえがやったんじゃないと分かっていても、ちょっと引っ掛かっちまうというか何というか・・・・・・気を悪くしたらすまねぇ」
 すまないと思っているのは本当だろう。ゼノはそういう人物だから。あっけらかんとして単純で、むやみに人を嫌うことはしないしたくないだろうから。
 しかし同時に、引っ掛かってしまうというのも本当なのだろう。短い付き合いだが、ゼノは性格的に嘘をつくのに向いていないというのは分かっている。
「・・・・・・いや、いいんだ」
 フロンダリアでグリフィスや兵士に憎しみと疑惑をぶつけられた時に思い知らされた。ミガー人には受け入れてもらえないのが普通なのだと。自身がしたことではないとはいえ、言わば自業自得なのだから。
 そう思ってじっと黙っていると、ゼノが再び問いかけてきた。
「なあ・・・・・・悪魔祓い師ならなんで貧民街の悪魔憑き達を助けようとしなかったんだ? ディックの母親を助けてあげられたかもしれないのに」
 それは当然の質問だった。誰だって疑問に思うことだろう。出来るはずなのに、しない理由はなんなのか。そう尋ねるゼノの目には、わずかばかりの不信が混ざっている。納得のいく理由を教えてくれと。アルベルトはしばし沈黙していたが、やがて答えない訳にはいかないと口を開いた。
「俺は――」
 しかしその時、突然進路方向から、ぞっとする気配がした。反射的に剣の柄に手を掛けて、気配のする方向を向く。同じように、ゼノも背負った剣に手を掛けて、敵の襲来に身構えた。
「――来る」
 次の瞬間、洞窟の奥で蠢く闇は、その中からいくつもの影を吐き出した。



 ろくに心の準備も出来ぬまま、それは闇の中から飛び出してきた。
 ゼノは剣を抜き放つと、現れた魔物を迎え打とうとした。魔物の影は躊躇う様子もなくこちらに向かって飛び掛かり、ゼノは動きを予測して剣を横薙ぎにする。魔物の動きは素早いようだが、待ち構えていれば斬るのは難しいことではない。振るった剣は獲物を捉え、その首を斬り落とす――はずだった。
「――!?」
 魔物を捉えたかと思った剣は、その実、何もない空間を斬っただけだった。振った勢いを殺し切れず、ゼノはたたらを踏む。はっとして上を見ると、そこには高く跳躍した魔物の姿があった。魔物はこちらの想像よりももう一段素早かったらしい。ゼノの一太刀を避けた魔物は、唸り声を上げて飛び掛かってきた。
 振り下ろされた爪をかろうじて避けて、ゼノは後方に転がった。素早く起き上がって剣を構えると、着地した魔物が様子を窺うようにゆっくりと這い寄ってくるのが見えた。
「何だコイツ!?」
 四足歩行動物にしては細い身体。鋭く尖った前足の爪。顔はつぶれ、眼球は飛び出している。前足より後ろ足の方が長くて、全体のバランスが悪い。それがこの魔物の不気味さを一層掻き立てている。初めて見る魔物だ。こんな魔物は、見たことも聞いたこともない。アルヴィアにしかいない種か、それとも新種だろうか。
「こいつは・・・・・・!」
 同じく剣を抜いたアルベルトが、魔物の姿を見て絶句する。
「知ってるのか!?」
 そう問いかけると、アルベルトは頷いて答えた。
「ああ・・・・・・以前メリエ・リドスで遭遇した」
「メリエ・リドスぅ!? あいつ街中に出るのかよ!?」
 ここも一応、スミルナの敷地内だ。街中に魔物とは由々しき事態ではないか。ここがいくら悪環境とはいえ、魔物が繁殖しているのはまずすぎる。排水口を遡って来られたらどうするつもりなのだ。教会は何か対策をしているのだろうか。
「うわっ!?」
 突進してきた影をかろうじて避けて、ゼノは数歩後退する。動きを負えないわけではないが、避けるのが精一杯だ。魔物の爪が掠った場所から、血の雫がぽたりと落ちる。
(コイツはオレじゃ無理だ・・・・・・!)
 魔物を骨ごと叩き斬るのは得意でも、素早い敵とスピード勝負をするのは向いてない。そういうのはキーネスの得意分野だ。担当じゃない魔物が相手では、いくらなんでも実力を出せない。
 また突進してきた魔物を避けて、ゼノは更に後ろへ下がる。敵は魔物だけではない。この暗闇もだ。カンテラの明かりは小さくて、狭い範囲しか照らせない。闇に紛れて近寄って来られたら、全く対応出来なくなる。悪条件が重なって手を出しかねていたゼノは、避けて距離を離した瞬間、集まった魔物達がゼノより近くにいる人間に、一斉にターゲットを切り替えたことにようやく気付いた。
 一人、前に出た状態になったアルベルトの元に、四匹の魔物が一斉に躍りかかった。アルベルトは剣を構えた状態だが、さすがに四匹同時に対処しきれるのだろうか。あの魔物は素早くて、ゼノは手も足も出せなかったのだから。役に立てるか分からないものの、ゼノは援護に向かおうとした。が、
 一閃。胴体から離れた黒い塊が弧を描いて宙を飛んだ。頭を失った身体が、切断面から血を噴いて倒れ伏す。魔物の首を断った剣は煌めく軌跡を残して次なる魔物の元へと向かい、とびかかってきたそいつの頭部を斬り裂いた。そのまま一歩下がって三匹目の爪を避け、胴体に一太刀浴びせる。黒い血を引く魔物の身体。肉塊となったそれを蹴飛ばして、今度は四匹目の突進を遮ろうとした。そいつは軽々とそれを避けたが、それこそアルベルトの狙い通り。繰り出された刺突は魔物の脳天を正確に捉え、易々と貫いた。
 だが行動を予測していたのはアルベルトだけではなかったようだ。四匹目を仕留めた隙に、暗闇に紛れていた五匹目がアルベルトに踊りかかる。闇の中にいたから今まで姿を捉えられず、飛び出してきた時は完全に死角の位置にいた。あれでは魔物の爪を防げない。気付いた時にはもう遅い。ゼノは自分では間に合わないと分かりつつも、助けようと魔物の元へ走り――
 その前に、アルベルトの剣が、魔物の胴を貫いていた。
「至尊なる神よ。その御手もて悪しきものに断罪を」
 唱えられた術が、魔物に潜む悪魔を滅ぼしていく。魔物は逃れようともがいていたが、無駄な足掻きでしかなかった。あっという間に悪魔は完全に浄化され、魔物はただの黒い肉塊と化した。
(は、速ぇ・・・・・・)