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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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「見張りは?」
「いない。しかし鍵が掛かってる」
「鍵はどこだ」
「鍵束の中にある。頭が丸い鍵だ!」
 鍵束を探ると、騎士が言う通り、持つ部分が丸い鍵が一つある。アルベルトは鍵束ごと鍵を受け取ると、ポケットに滑り込ませた。
「今言ったことに嘘はないな」
「ない! ないから助けてくれ!」
 騎士は情けなくも叫び、冷や汗をだらだら流している。怯え方が尋常でないのは、アルベルトが悪魔堕ちした悪魔祓い師だからだろうか。色々と好都合ではあるが、あまりいい気はしない。
「神に誓えるか?」
「ち、誓う!」
「よし」
 アルベルトは剣を引いて騎士を突き飛ばすと、剣の柄で騎士の顔をしたたか殴りつけた。騎士は鼻血を撒き散らしながら昏倒し、やかましい音を立てて牢の石床に転がる。アルベルトは気絶した騎士の腕に手枷の鎖を巻きつけると、手に入れた鍵を使って足枷も外し、奪った剣を携えて牢を出た。あの騎士に恨みはないが、二人で見回りにこない怠惰ぶりと不用意に囚人に近づく不用心さを反省してもらうことにしよう。これが悪魔教徒のような邪悪な輩なら、この騎士の命はなかっただろうから。
 念のため牢にも鍵をかけると、アルベルトは二つ隣の牢を覗き込んだ。牢の住人は壁に耳を当てた格好で、こちらをぽかんと見つめている。
「ゼノ、無事か?」
「アルベルト! よかった元気そうだな! 心配したぜ」
 顔を輝かせて嬉しそうに言うゼノを見て、アルベルトはほっとした。とりあえず、ものすごく元気そうだ。アルベルトは牢の鍵を開け、中に入った。
「いや、でもそんなに無事じゃないかも・・・・・・おまえが食うなって言うから食ったふりをしたけど・・・・・・腹減った・・・・・・」
 ゼノは遠い目をしてそう呟いた。先程とうってかわって、表情がかなり死んでいる。
「大丈夫か? でも、食べられるようなものはないな・・・・・・」
「・・・・・・実は非常用の食い物を隠し持ってたんだ。湿気てて不味かったけど、おかげで死にそうってほどでもない。だからまあ大丈夫だ。すまねえ。しかし遊びで作った隠しポケットがこんなことに役に立つとは・・・・・・おまえは大丈夫なのか?」
「心配はいらないよ。昔は二か月くらい何も食べなかった時もあったし、それに比べたらなんでもない。思ったよりも短くてすんだしな」
 魔女狩りにおいて魔術師達を無力化させるため、身体を麻痺させる薬を飲ませたという。今回も、そういったものを食事に仕込んでいたとしてもおかしくない。となると、食事をしなければ、何かしらの反応を取ると踏んだのだ。あの騎士が思ったよりも不用心で助かった。
 手枷を外し、両手が自由になったゼノは、今度は自分で足枷を外し始めた。鍵を捜し当てて錆びた鍵穴に入れる。しばらくがちゃがちゃやっているうちに、段々ゼノの顔が曇り始めた。どうやら錆びていて鍵が外れないようだ。
「ど、どうしたらいいんだよこれ」
 鍵はあるのに、外せなければ意味がない。自分だけ逃げられないのかとゼノは焦りを見せたが、どうやっても鍵が外れない。これでは普通に鍵を外すのは無理だろう。足枷を見ていたアルベルトは、そう判断して剣の柄に手を掛けた。
「ゼノ、動かないでくれ」
 そう言うと、ゼノは首を傾げながらも動きを止める。アルベルトは騎士から拝借した剣を抜くと、意識を集中させた後、足枷に向けて一閃した。
 小さな金属音と共に、枷がすっぱり断ち切られた。錆びて重くなったそれは、石床に転がって大きな音を立てる。落ちたそれを一瞥してから、アルベルトは剣に目を移した。
「ちゃんと手入れされているな。いい剣だ」
 騎士から奪った剣を眺めながら、アルベルトは呟いた。あの騎士は武具の手入れは丁寧に行っていたようだ。アルベルトは剣を鞘に納めると、斬れた足枷をじっと見つめていたゼノに言った。
「よし。とにかくここから脱出しよう。ゼノ、動けるか?」
「・・・・・・え? あ、いや、それは大丈夫。脱出するなら、武器を取り返さないとな」
「囚人から没収したものは倉庫に保管されているはずだ。そこで武器を取り返そう」
「分かった。その後はどうする? やっぱ正面突破しかないのか?」
「いいや。正面は無理だ」
 ここは最下層の地下牢だ。十人というのは、あくまで外までの最短ルートに常駐している見張りの数だ。巡回している騎士も含めれば、外まで見張りは山ほどいるだろう。脱出できそうなルートは一つだけだ。
「地下洞窟を行く」



 錆びた溝蓋の留め金を壊して持ち上げると、埃っぽい匂いが鼻を突いた。真っ暗な室内に光源は一つもない。明かり取りの窓すらなく、常人なら鼻を摘まれても分からない真っ暗闇が満ちている。だが、そんな暗闇もアルベルトには障害にはならない。雑多に積まれた荷物を避けて、棚に置かれた古びたそれを手に取った。
「ゼノ、これに火を」
「おう」
 侵入路に戻って待っていたゼノにカンテラを差し出すと、彼は持っていた火のついた蝋燭をカンテラの中に入れた。蝋燭は騎士が持っていたカンテラの中に入っていたものだ。剣を奪った時に騎士が落として壊れてしまったので、新しいものに移し替える必要があったのだ。明かりを持って倉庫に乗り込んだゼノは、埃だらけの棚を見回して、すぐに目的のものを見つけた。
「オレの剣!」
 古びた棚に無造作に放り込まれていた剣を見て、ゼノは嬉しそうに言った。くっついていた埃を払い、いそいそと腰に帯びる。
「・・・・・・大事なものなのか?」
「大事な仕事道具だからってお袋と弟妹達が金出してくれたんだよ。魔物と戦って折れるならともかく、没収されてなくすなんてあいつらに怒られちまうぜ」
 ゼノはそう言って、剣を見ながらにやにやする。その喜びように、他人事ながら少し嬉しくなった。
(俺の剣はないな・・・・・・)
 アルベルトも同じように周囲を探したが、自分の剣は見つけられなかった。教会からの支給品で、ゼノのように謂れのある物ではないが、ここ数年使ってきた分、愛着はある。なにより悪魔祓い師のための聖印が刻まれた剣なので、あれがなければ魔物や悪魔と戦う時に術の威力が落ちてしまう。危険なものではないからか、これを見て反省してろということなのか、ロザリオは奪われなかったから全く術が使えないということはないのだが、聖印もない今、騎士の剣だけではいつか限界が来るだろう。
(とにかくここを出ることを優先するしかないか・・・・・・)
 剣のことは諦めよう。まずは外に出なければ。アルベルトは踵を返すと、元来た溝の中に戻った。
「にしても、スミルナの地下にこんなものがあったんだな」
 同じく地下の通路に戻ってきたゼノは、狭い通路内を見回した。足元にはちょろちょろ水が流れていて、ギリギリ一人立てるくらいの足場が流れる水の両脇にある。壁には腰の高さくらいまで水で浸蝕された跡があるので、昔はもっと水量があったのだろう。
「天然の洞窟を下水道に使ってるんだ。さらにその一部を緊急用の脱出経路にしている。使われたことはないが」
「下水道・・・・・・? だがらちょっと変な臭いがするのか。大丈夫なのか? こんなところ通って」